ドロップアームテスト(Drop arm test)

■ 概要

ドロップアームテストは、上肢の挙上位からの制御された下降動作を評価することで、腱板(特に棘上筋)の機能障害や断裂を判定する理学検査である。 肩関節の機能的評価として、腱板損傷の有無を判断する代表的検査である。


■ 目的

  • 棘上筋の機能評価
  • 腱板断裂のスクリーニング
  • 肩関節の運動制御能力の評価

■ 方法

  1. 患者の上肢を外転約90度まで挙上する(他動または自動)
  2. その位置からゆっくりと自力で下ろすよう指示する
  3. 下降動作の質を観察する

■ 陽性所見

  • 上肢をゆっくり下ろせず途中で落ちる(ドロップする)
  • 疼痛のため動作が制御できない

これらが認められる場合、陽性とする。


■ 解釈(病態)

正常では棘上筋を中心とした腱板が働き、滑らかな下降が可能である。 しかし、断裂や機能低下があると運動制御ができず、上肢が急に落下する。

完全断裂では典型的なドロップ現象がみられる。


■ 鑑別のポイント

  • ニアーホーキンステスト陽性のみ → インピンジメント(初期)
  • ドロップアーム陽性 → 腱板断裂の可能性が高い
  • 疼痛のみで落下しない → 炎症・腱炎の可能性

■ 東洋医学的関連

ドロップアームテストでみられる筋機能低下は、東洋医学では以下のように解釈される。

関連する経絡:


■ 鍼灸臨床との関連

● 病態把握

  • 急性期:炎症+筋抑制
  • 慢性期:筋力低下+瘀血

● 治療方針

  • 腱板の機能回復(筋賦活)
  • 局所の血流改善
  • 炎症の鎮静
  • 経絡の通利

● 代表的な経穴

● 臨床的ポイント

  • 断裂疑いでは無理な運動負荷を避ける
  • 軽度損傷では電気鍼や運動療法の併用が有効
  • 慢性例では筋力再教育が重要

■ 注意点(安全管理)

  • 急激な落下による二次損傷に注意
  • 強い疼痛がある場合は無理に行わない
  • 重度断裂が疑われる場合は専門医へ紹介

■ まとめ

ドロップアームテストは、腱板(特に棘上筋)の断裂を評価する重要な機能検査である。 インピンジメント検査と組み合わせることで病態の進行度を把握でき、 東洋医学的には気血不足瘀血として捉え、鍼灸治療に応用できる。

ばね指(弾発指)まとめ

■ 概要

ばね指(弾発指)は、指の屈筋腱が腱鞘部で肥厚・狭窄を起こし、腱の滑走障害によって指の引っかかりや弾発現象を生じる狭窄性腱鞘炎である。

  • 指の引っかかり(ロッキング)
  • カクンと跳ねる動き(弾発現象)
  • 朝のこわばり
  • 進行すると伸展不能(ロック)

■ 解剖

● 屈筋腱と腱鞘

指の屈筋腱(浅指屈筋深指屈筋)は腱鞘内を滑走しながら指を屈曲させる。 腱鞘には滑車(プーリー構造)が存在し、特にA1プーリー部で障害が起こりやすい。

※ A1プーリーでの「引っかかり」が本質


■ 病態

● 本質

  • 腱の肥厚(結節形成)
  • 腱鞘の狭窄
  • 滑走障害

● 発生機序

  • 反復動作(手の使いすぎ)
  • ホルモン変化(更年期・妊娠)
  • 糖尿病など代謝異常

※ 「腱が太くなり、トンネルを通れなくなる」状態


■ 関連する筋肉

● 主働筋

● 補助筋


■ 症状の特徴

  • 指の付け根(掌側)の圧痛
  • 曲げ伸ばしで引っかかる
  • 伸ばすときに「カクン」となる
  • 朝に症状が強い

※ 「引っかかり+弾発」が特徴的


■ 理学検査

● 弾発現象の確認

指の屈伸運動を行い、引っかかりや跳ねる動きを確認する。
ばね指の典型所見。

● A1プーリー圧痛

中手骨頭部掌側を触診し、圧痛の有無を確認する。

● ロッキング現象

指が屈曲位で固定され、自力で伸展できない状態を確認する。


■ 鍼灸治療

● 局所穴(手掌)

● 指周囲

● 前腕屈筋群

● 阿是穴

  • A1プーリー部の圧痛点

■ 遠隔穴


■ 経絡的理解

手掌側の屈曲障害は、心包経肺経の影響を受けやすい。


■ 鍼灸的ポイント

  • A1プーリー部の圧痛を正確に捉える
  • 腱の滑走改善を目的とする
  • 前腕屈筋群の緊張緩和
  • 過使用の制限が重要

■ 鑑別ポイント


■ まとめ

  • A1プーリーでの狭窄が本質
  • 屈筋腱の肥厚による滑走障害
  • 弾発現象が特徴的所見
  • 腱の滑走改善と負荷軽減が重要

ホーキンステスト(Hawkins test / Hawkins-Kennedy test)

■ 概要

ホーキンステストは、肩関節を屈曲位で内旋させることで肩峰下スペースを機械的に圧迫し、インピンジメント症候群の有無を評価する理学検査である。 ニアーテストと並び、肩峰下インピンジメントの代表的検査である。


■ 目的


■ 方法

  1. 患者を座位または立位とする
  2. 肩関節および肘関節を90度屈曲させる
  3. 検者が上腕を固定し、前腕を内旋方向へ他動的に押し込む

■ 陽性所見

肩関節前面〜外側に疼痛が出現する場合を陽性とする。


■ 解釈(病態)

内旋動作により上腕骨大結節が肩峰下面に接近し、以下の組織が圧迫される:

  • 棘上筋腱
  • 肩峰下滑液包
  • 烏口肩峰アーチ下の軟部組織

示唆される病態:


■ ニアーテストとの違い(重要)

  • ニアーテスト挙上による圧迫(前方ストレス)
  • ホーキンステスト:内旋による圧迫(回旋ストレス)

両者がともに陽性の場合、インピンジメントの可能性が高い


■ 鑑別のポイント

  • ドロップアームテスト陽性 → 腱板断裂の可能性
  • 可動域制限が主体 → 凍結肩(肩関節周囲炎)
  • 頸部テスト陽性 → 頸椎由来の可能性

■ 東洋医学的関連

ホーキンステストで誘発される疼痛は、東洋医学では痺証(ひしょう)として理解される。

関連する経絡:


■ 鍼灸臨床との関連

● 病態把握

  • 急性期:炎症・滑液包腫脹(実証)
  • 慢性期:瘀血+筋緊張

● 治療方針

  • 肩峰下の圧迫軽減
  • 腱板の負担軽減
  • 炎症抑制・血流改善
  • 経絡の通利

● 代表的な経穴

● 臨床的ポイント


■ 注意点(安全管理)

  • 疼痛を強く誘発しすぎない
  • 急性炎症期では慎重に実施
  • 腱板断裂疑いでは無理な操作を避ける

■ まとめ

ホーキンステストは、肩峰下インピンジメントを評価する重要な理学検査であり、 ニアーテストと併用することで診断精度が高まる。 東洋医学的には痺証気血停滞として捉え、鍼灸治療に応用できる。

ニアーテスト(Neer test)


■ 概要

ニアーテストは、肩関節を強制的に挙上させることで肩峰下スペースを狭小化し、インピンジメント症候群(impingement syndrome)の有無を評価する理学検査である。 特に棘上筋腱・肩峰下滑液包の挟み込み(インピンジメント)を検出する代表的な検査である。


■ 目的


■ 方法

  1. 患者を座位または立位とする
  2. 検者は患者の肩甲骨を固定する
  3. 上肢を内旋位(母指を下)にした状態で、前方から他動的に最大挙上(屈曲)させる

■ 陽性所見

肩関節前面〜外側に疼痛が出現する場合を陽性とする。


■ 解釈(病態)

上腕骨頭と肩峰の間(肩峰下スペース)が狭小化し、以下の組織が圧迫されることで疼痛が誘発される:

以下の病態が示唆される:


■ 鑑別のポイント


■ 東洋医学的関連

ニアーテストで誘発される肩関節痛は、東洋医学では痺証(ひしょう)として捉えられる。

関連する経絡:


■ 鍼灸臨床との関連

● 病態把握

  • 急性期:炎症・滑液包の腫脹(実証)
  • 慢性期:瘀血+筋緊張

● 治療方針

  • 肩峰下スペースの圧迫軽減
  • 腱板の負担軽減
  • 血流改善・炎症抑制
  • 経絡の通利

● 代表的な経穴

● 臨床的ポイント

  • 陽性例では挙上動作の反復を避ける
  • 初期は炎症コントロール優先
  • 改善後は肩甲骨運動の再教育が重要

■ 注意点(安全管理)

  • 疼痛を強く誘発しすぎない
  • 急性炎症期では慎重に行う
  • 腱板断裂が疑われる場合は無理な挙上を避ける

■ まとめ

ニアーテストは、肩峰下インピンジメントを評価する基本的かつ重要な検査である。 肩関節挙上時の疼痛再現を通じて腱板・滑液包の状態を把握でき、 東洋医学的には痺証気血停滞として捉え、鍼灸治療へ応用できる。

ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)まとめ

■ 概要

ドケルバン病は、母指の伸展・外転に関与する腱(長母指外転筋・短母指伸筋)が通過する第1背側コンパートメントにおいて、 腱鞘の肥厚・狭窄が生じ、疼痛を呈する狭窄性腱鞘炎である。

  • 手関節橈側(親指側)の痛み
  • 母指の動きで疼痛増強
  • 腫脹・圧痛
  • 産後や更年期女性に多い

■ 解剖

● 第1背側コンパートメント

手関節橈側、橈骨茎状突起付近に存在する腱鞘トンネル。

※ 狭いトンネル内で腱が滑走するため、摩擦が生じやすい


■ 病態

● 本質

  • 腱鞘の肥厚・狭窄
  • 腱の滑走障害

● 発生機序

  • 母指の反復使用(抱っこ・スマホ操作など)
  • ホルモン変化(妊娠・出産・更年期)
  • オーバーユース

※ 「使いすぎ+滑走不全」が本質


■ 関連する筋肉

● 主働筋

● 補助筋


■ 症状の特徴

  • 橈骨茎状突起部の圧痛
  • 母指の動作で鋭い痛み
  • 物をつかむ・持ち上げると痛む
  • 腫脹・熱感を伴うこともある

※ 「親指を動かすと手首の外側が痛い」が典型


■ 理学検査

● フィンケルシュタインテスト

母指を握り込んで手関節を尺屈させる。
橈側手関節に強い疼痛が出現すれば陽性。

● Eichhoffテスト

母指を握り込んだ状態で患者自身に尺屈させる方法。
フィンケルシュタインテストと類似。

● 抵抗外転テスト

母指外転に抵抗を加え、疼痛の有無を確認する。


■ 鍼灸治療

● 局所穴(橈側手関節)

● 前腕橈側

● 阿是穴

  • 橈骨茎状突起周囲の圧痛点

■ 遠隔穴


■ 経絡的理解

母指橈側の症状は、大腸経・肺経の走行と一致する。


■ 鍼灸的ポイント

  • 腱の滑走改善を意識する
  • 局所の炎症を抑えつつ循環改善
  • 母指の過使用を制限する指導が重要
  • 前腕橈側筋群の緊張を緩和する

■ 鑑別ポイント

  • 手根管症候群:しびれ(正中神経)
  • ばね指:屈筋腱の引っかかり
  • ドケルバン病:母指運動での橈側手関節痛

■ まとめ

  • 第1背側コンパートメントの狭窄が本質
  • 母指の使いすぎで発症
  • フィンケルシュタインテストが有効
  • 腱の滑走改善と負荷軽減が治療の鍵

手根管症候群まとめ

■ 概要

手根管症候群は、手関節部の手根管内で正中神経が圧迫されることにより、 手のしびれや感覚障害、母指球筋の筋力低下を生じる絞扼性神経障害である。

  • 母指〜環指橈側のしびれ
  • 夜間・早朝に症状が出やすい
  • 手を振ると軽快(フリックサイン)
  • 進行すると母指球筋萎縮

■ 解剖

● 手根管の構造

手根骨と屈筋支帯(横手根靱帯)によって形成されるトンネル構造。

  • 骨:手根骨(凹状構造)
  • 屋根:屈筋支帯

● 通過する組織

※ 狭い空間に多くの腱が通るため圧迫されやすい


■ 病態

● 発生機序

  • 腱鞘炎(屈筋腱の炎症)
  • 手の使いすぎ(反復動作)
  • 女性ホルモンの影響(妊娠・更年期)
  • 浮腫(体液貯留)

● 本質


■ 支配領域と症状

● 感覚障害

  • 母指
  • 示指
  • 中指
  • 環指橈側(親指側半分)

※ 小指は含まれない(尺骨神経領域)

● 運動障害

  • 母指対立障害
  • 母指球筋萎縮(進行例)

● 特徴的所見

  • 夜間痛・しびれ
  • フリックサイン(手を振ると軽快)

■ 理学検査

● ティネル徴候(手関節

手関節掌側を叩打し、指先に放散するしびれが出れば陽性。

● ファーレンテスト

手関節を最大屈曲位で保持し、しびれの再現を確認する。
60秒以内に症状が出現すれば陽性。

● 逆ファーレンテスト

手関節を背屈位で保持し、症状の誘発を確認する。

● 母指対立テスト

母指と小指を合わせる動作の筋力低下を評価。


■ 関連する筋肉

● 正中神経支配筋

● 前腕筋


■ 鍼灸治療

● 局所穴(手関節

● 正中神経走行

● 阿是穴

  • 手根管部の圧痛点

■ 遠隔穴


■ 経絡的理解

手掌側の症状は、特に心包経の影響が強い。


■ 鍼灸的ポイント

  • 手根管内圧の軽減を意識する
  • 屈筋腱の緊張緩和
  • 前腕から手部までの連続性をみる
  • 生活指導(手の使いすぎ回避)が重要

■ 鑑別ポイント

  • 肘部管症候群:小指・環指のしびれ(尺骨神経
  • 頸椎症:上肢全体の放散痛
  • 手根管症候群:母指〜中指のしびれ(正中神経

■ まとめ

ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)まとめ

■ 概要

ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)は、前腕屈筋群の共通起始腱が付着する上腕骨内側上顆部で炎症・変性が起こり、 肘内側の疼痛を生じる付着部障害(enthesopathy)である。

  • 肘内側の局所痛
  • 手関節屈曲・回内で痛み増強
  • 握る・引く動作で痛み
  • 反復動作によるオーバーユースが主因

■ 病態

● 本質

  • 腱付着部の微細損傷の蓄積
  • 炎症よりも「腱の変性(腱症)」が主体

● 発生機序

  • 前腕屈筋群の過使用
  • 手関節の反復屈曲・回内動作
  • 筋力アンバランス

テニス肘(外側)と対になる内側の障害


■ 関連する筋肉

● 前腕屈筋群(共通屈筋腱)

これらはすべて上腕骨内側上顆から起始する。

● 機能


■ 症状の特徴

  • 内側上顆の圧痛
  • 握る・引く動作で痛み
  • ドアノブを回す、タオルを絞る動作で増悪
  • 前腕内側に放散することもある

※ 「握る+回内」で痛むのが特徴


■ 理学検査

● 手関節屈曲抵抗テスト

手関節屈曲に抵抗を加え、内側上顆に痛みが出れば陽性。
最も基本的な検査。

● 回内抵抗テスト

前腕回内に抵抗を加え、疼痛の有無を確認する。

● ストレッチテスト

肘伸展位で手関節を背屈し、前腕屈筋群を伸張する。
痛みが再現されれば陽性。


■ 鍼灸治療

● 局所穴

● 前腕内側

● 阿是穴

  • 内側上顆周囲の圧痛点

■ 遠隔穴


■ 経絡的理解

肘内側は陰経(心・心包・肺)の走行と一致する。


■ 鍼灸的ポイント

  • 屈筋群の過緊張を緩和する
  • 付着部の微細損傷に対する循環改善
  • 過負荷動作の修正が重要
  • 外側(伸筋群)とのバランスも考慮する

■ 鑑別ポイント

  • テニス肘:外側上顆の痛み(伸筋群)
  • 肘部管症候群:小指・環指のしびれ(神経症状)
  • ゴルフ肘:内側上顆の局所痛(屈筋群)

■ まとめ

  • 内側上顆の付着部障害が本質
  • 前腕屈筋群のオーバーユースが原因
  • 手関節屈曲・回内で痛みが増強
  • テニス肘との対比理解が重要