脳動脈(cerebral arteries)まとめ

◆ 概要

脳動脈は、脳へ血液を供給する動脈群の総称であり、 主に内頸動脈系(前方循環)椎骨動脈‐脳底動脈系(後方循環)の2系統によって構成されます。

これらの動脈は脳底部でウィリス動脈輪を形成し、 脳循環の側副血行路として機能します。


◆ 脳循環の2系統

◎ 前方循環(内頸動脈系)

  • 前大脳動脈
  • 中大脳動脈

主に大脳半球前部および側面へ血液を供給します。

◎ 後方循環(椎骨動脈系)

脳幹・小脳・後頭葉へ血流を供給します。


◆ 主な脳動脈

◎ 前大脳動脈(ACA)

  • 大脳半球内側面
  • 下肢運動野
  • 前頭葉内側

閉塞すると下肢優位の運動麻痺が生じることがあります。

◎ 中大脳動脈(MCA)

  • 大脳半球外側面
  • 運動野
  • 感覚野
  • 言語中枢

脳梗塞で最も頻繁に障害される動脈です。

◎ 脳底動脈(basilar artery)

  • 左右の椎骨動脈が合流して形成
  • 橋前面を走行

脳幹や小脳へ血液を供給します。

◎ 後大脳動脈(PCA)

  • 後頭葉
  • 視覚野
  • 視覚情報処理領域

障害されると視野欠損が生じることがあります。


◆ 小脳動脈

◎ 上小脳動脈(SCA)

  • 小脳上部
  • 中脳周囲

◎ 前下小脳動脈(AICA)

  • 小脳前下部
  • 内耳構造

◎ 後下小脳動脈(PICA)

  • 小脳後下部
  • 延髄

PICAの閉塞はワレンベルグ症候群の原因となることがあります。


◆ ウィリス動脈輪

脳底部には以下の動脈が連結して ウィリス動脈輪(Circle of Willis)が形成されます。

  • 前大脳動脈
  • 前交通動脈
  • 内頸動脈
  • 後交通動脈
  • 後大脳動脈

この構造は脳血流の側副循環として重要です。


◆ 臨床的関連

  • 脳梗塞
  • 脳動脈瘤
  • 一過性脳虚血発作(TIA)
  • 脳幹梗塞

脳動脈の閉塞や破裂は、 運動障害・感覚障害・言語障害などの神経症状を引き起こします。


◆ 東洋医学的観点

東洋医学では脳は「髄海」と呼ばれ、 主に腎精によって養われると考えられます。

また脳の働きは

  • 心(神志)
  • 肝(気血の巡り)
  • 腎(精)

の協調によって維持されるとされています。


◆ 鍼灸臨床との関連

脳循環の低下や神経機能障害に関連する症状として、 以下が挙げられます。

  • めまい
  • 頭痛
  • 脳血管障害後遺症
  • 記憶力低下

臨床では以下の経穴が使用されます。

これらの刺激により、 脳血流調整や自律神経バランスの改善が期待されます。


◆ まとめ

  • 脳動脈は前方循環と後方循環の2系統
  • 前大脳動脈・中大脳動脈が大脳前部を灌流
  • 脳底動脈・後大脳動脈が脳幹・後頭葉を灌流
  • 小脳動脈が小脳へ血流供給
  • ウィリス動脈輪が側副循環を形成

脳動脈は神経機能を維持するための最重要循環系であり、 わずかな血流障害でも重大な神経症状を引き起こします。

顎関節の特徴と関連する経穴・臨床ポイント

概要

顎関節は、下顎骨側頭骨の間に形成される滑膜関節で、咀嚼・会話・嚥下などの日常生活に不可欠な運動を担う関節です。
関節円板を介して上下2つの関節腔に分かれる特徴的な構造を持ち、
回転運動(蝶番運動)と滑走運動の組み合わせによって開口・閉口・前後運動・側方運動を行います。



構成する骨



関節の種類

滑膜関節(複合関節・蝶番滑走関節)



関節の構造

  • 関節円板(線維軟骨)
  • 上関節腔(滑走運動)
  • 下関節腔(回転運動)


運動

  • 開口(下制)
  • 閉口(挙上)
  • 前方運動(前突)
  • 後方運動(後退)
  • 側方運動


支持する靭帯

  • 外側靭帯(顎関節靭帯)
  • 蝶下顎靭帯
  • 茎突下顎靭帯
  • 関節包


作用筋(咀嚼筋)

閉口筋

開口筋



ランドマーク(触診)

  • 耳珠の前方約1cmに関節部がある
  • 開口・閉口時に下顎頭の動きを触知可能
  • 開口時のクリック音は関節円板の偏位を示唆することがある


臨床で重要なポイント

  • 顎関節症(TMJ disorder)
  • 開口障害
  • クリック音・関節雑音
  • 咀嚼筋の緊張
  • 頭痛・耳鳴り・頸肩こりとの関連
  • 歯ぎしり(ブラキシズム)


東洋医学的関連

顎関節周囲は手足の陽経が集中する重要な部位であり、特に顔面を走行する
足の陽明胃経手の少陽三焦経足の少陽胆経の影響を強く受けます。
また顎関節の緊張は肝気鬱結・ストレス・情志の停滞とも関係が深いとされます。

関連する主な経絡

顎関節周囲の代表的経穴

遠隔治療穴(よく使われる)

鍼灸臨床での関連

  • 顎関節症
  • 開口障害
  • 歯ぎしり・食いしばり
  • 側頭部頭痛
  • 耳鳴り・耳閉感
  • ストレス関連症状

顎関節は咀嚼筋・頸部筋・姿勢(特に頭位)と密接に関係するため、
鍼灸治療では局所+頸部+遠隔穴を組み合わせて調整することが多い部位です。

胸筋まとめ

胸筋は胸部前面に位置する筋群で、主に肩関節の運動(内転・内旋・屈曲)上肢の固定に関与します。また、上肢が固定された状態では呼吸補助筋として胸郭の拡張にも関わります。



◆ 構成筋



◆ 起始・停止・作用・神経支配

筋名 起始 停止 主作用 神経支配
大胸筋 鎖骨内側半
胸骨前面
第1〜6肋軟骨
腹直筋鞘
上腕骨大結節稜 肩関節内転
内旋
屈曲
内側胸筋神経
外側胸筋神経
小胸筋 第3〜5肋骨 肩甲骨烏口突起 肩甲骨前方移動
肩甲骨下制
呼吸補助
内側胸筋神経


◆ 機能的特徴

  • 上肢の内転・内旋の主働筋(大胸筋
  • 押す動作(腕立て・ベンチプレス)に関与
  • 小胸筋肩甲骨の安定化に関与
  • 上肢固定時は呼吸補助筋として働く


◆ 触診ポイント

  • 大胸筋胸部前面に広く触知可能
  • 腕を内転・内旋させると収縮を確認
  • 小胸筋大胸筋深層、烏口突起周囲で圧痛確認


◆ 臨床的特徴

  • 巻き肩(ラウンドショルダー)の原因筋
  • 小胸筋短縮は肩甲骨前傾を生じる
  • 胸郭出口症候群(TOS)との関連
  • 肩関節インピンジメント症候群の要因


◆ 関連症状

  • 肩前面の痛み
  • 肩甲骨外転姿勢
  • 胸部の圧迫感
  • 腕のしびれ(胸郭出口症候群)


◆ 東洋医学的関連


胸筋は上肢運動だけでなく姿勢・呼吸機能にも影響する重要な筋群です。特に小胸筋の短縮は姿勢不良の大きな要因となります。

咀嚼筋まとめ

咀嚼筋は、顎関節を動かし、咀嚼(食物を噛む動作)を行う筋群です。これらの筋はすべて三叉神経第3枝(下顎神経)によって支配されます。

咀嚼筋は、下顎骨を動かす4つの筋から構成され、咀嚼運動・発音・顎関節の安定に重要な役割を持ちます。


◆ 構成筋



◆ 起始・停止・作用・神経支配

筋名 起始 停止 主作用 神経支配
咬筋 頬骨弓 下顎骨下顎枝外側面 下顎挙上(口を閉じる) 下顎神経(V3)
側頭筋 側頭窩 下顎骨筋突起 下顎挙上・後退 下顎神経(V3)
内側翼突筋 翼突窩 下顎骨内側面 下顎挙上・側方運動 下顎神経(V3)
外側翼突筋 蝶形骨大翼・外側翼突板 下顎骨・関節円板 下顎前突・開口 下顎神経(V3)


◆ 咀嚼運動のメカニズム



◆ 触診ポイント



◆ 臨床的特徴

  • 顎関節症(TMD)との関連が強い
  • 歯ぎしり(ブラキシズム)で過緊張
  • 側頭筋は緊張性頭痛の原因となる
  • 咬筋肥大はストレスと関連


◆ 関連症状

  • 顎関節痛
  • 開口障害
  • 側頭部痛
  • 耳周囲痛


◆ 東洋医学的関連


咀嚼筋は顎関節運動の主動筋であり、顎関節症・頭痛・ストレス関連症状と密接に関係する重要な筋群です。

表情筋まとめ

表情筋は、顔面に存在する皮筋群であり、皮膚に付着して表情を作るという特徴を持ちます。多くの骨格筋が骨から骨へ付着するのに対し、表情筋は骨 → 皮膚に付着するため、顔の細かな表情変化を可能にします。

すべての表情筋は顔面神経(第Ⅶ脳神経)によって支配されます。


◆ 表情筋の特徴


◆ 主な表情筋

部位 筋名 主な作用
前頭部 後頭前頭筋(前頭腹) 眉を上げる、額のしわを作る
眼周囲 眼輪筋 眼瞼を閉じる
鼻部 鼻筋 鼻孔の開閉、鼻背のしわ形成
口周囲 口輪筋 口唇を閉じる、突出
頬部 頬筋 頬を引き締める、咀嚼補助
頸部 広頚筋 口角を下げる、頸部皮膚を緊張

◆ 機能的分類

① 眼周囲筋

② 鼻筋群

③ 口周囲筋

  • 口輪筋
  • 大頬骨筋
  • 小頬骨筋
  • 口角挙筋
  • 口角下制筋
  • 笑筋
  • オトガイ筋

◆ 支配神経

顔面神経(第Ⅶ脳神経)

顔面神経は耳下腺内で枝分かれし、以下の5枝に分布します。

  • 側頭枝
  • 頬骨枝
  • 頬筋枝
  • 下顎縁枝
  • 頸枝

◆ 臨床的特徴

  • 顔面神経麻痺(ベル麻痺)で表情筋麻痺
  • 閉眼不能(兎眼)
  • 口角下垂
  • 鼻唇溝の消失

◆ 東洋医学的関連


表情筋は「顔面神経機能・感情表現・咀嚼補助」を担う重要な筋群であり、顔面神経麻痺の評価において極めて重要です。

眼動脈(ophthalmic artery)まとめ

◆ 概要

眼動脈(ophthalmic artery)は、内頸動脈から分岐する動脈であり、 眼球および眼窩内構造へ血液を供給する主要な血管です。

視覚機能を維持するための重要な血流供給路であり、 網膜・視神経・眼筋・涙腺などへ枝を送ります。 また顔面動脈系との吻合を持つため、 内頸動脈系と外頸動脈系をつなぐ重要な血行路でもあります。


◆ 起始

  • 内頸動脈(海綿静脈洞を出た直後)
  • 前床突起付近

◆ 走行

眼動脈は内頸動脈から前方へ分岐し、 視神経管を通って頭蓋内から眼窩へ入ります。

眼窩内では視神経の外側から上方へ回り込み、 その後内側へ向かって走行しながら多数の枝を分岐します。


◆ 主な分枝

◎ 中心網膜動脈(central retinal artery)

  • 視神経内を通過
  • 網膜内層へ血流供給
  • 閉塞すると急性視力障害を起こす

◎ 後毛様体動脈

  • 短後毛様体動脈
  • 長後毛様体動脈

脈絡膜や虹彩へ血流を供給します。

◎ 涙腺動脈

  • 涙腺
  • 眼瞼外側部

◎ 眼窩上動脈

  • 前頭部
  • 頭皮

◎ 篩骨動脈(前・後)

  • 篩骨洞
  • 鼻腔
  • 硬膜

◎ 内側眼瞼動脈

  • 上下眼瞼

◎ 鼻背動脈


◆ 支配領域

  • 眼球
  • 網膜
  • 脈絡膜
  • 視神経
  • 外眼筋
  • 涙腺
  • 眼瞼
  • 前頭部皮膚

◆ 血管吻合

眼動脈は外頸動脈系と複数の吻合を持ちます。

このため顔面からの血流が眼動脈へ逆流することもあります。


◆ 臨床的関連

◎ 中心網膜動脈閉塞

  • 突然の視力消失
  • 眼科救急

◎ 巨細胞性動脈炎

  • 高齢者に多い
  • 視力障害を引き起こすことがある

◎ 眼窩疾患

  • 眼窩腫瘍
  • 眼窩炎症

◆ 東洋医学的観点

眼は東洋医学では「五臓六腑の精が集まるところ」とされ、 特に以下の臓腑と関係します。

  • 肝:目に開竅する
  • 腎:精が視力の基礎となる
  • 心:血が視覚を養う

眼動脈による血流供給は、 これらの「血・精」による栄養作用を 解剖学的に支える基盤と考えることができます。


◆ 鍼灸臨床との関連

眼動脈循環が関係する可能性のある症状には 以下のものがあります。

  • 眼精疲労
  • 視力低下
  • ドライアイ
  • 眼瞼痙攣

臨床では以下の経穴が用いられます。

これらは眼周囲循環や自律神経調整を目的として使用されます。


◆ まとめ

  • 内頸動脈から分岐
  • 視神経管を通って眼窩へ入る
  • 網膜・視神経・眼球へ血流供給
  • 外頸動脈系と吻合を持つ
  • 視覚機能維持に重要

眼動脈は、 視覚器全体の循環を担う中心的動脈です。

内頸動脈(internal carotid artery)まとめ

◆ 概要

内頸動脈(internal carotid artery)は、 総頸動脈の終末枝の一つであり、 主に脳および眼球へ血液を供給する重要な動脈です。

外頸動脈が顔面や頭頸部外側を栄養するのに対し、 内頸動脈は頭蓋内循環の主要血管として 大脳半球の前方循環を担います。



◆ 起始

  • 総頸動脈の終末分岐
  • 第3〜第4頸椎レベル
  • 頸動脈三角付近

同じ位置で外頸動脈と分岐します。



◆ 走行

内頸動脈は頸部から頭蓋内へ入り、 以下の4つの区分で説明されます。

◎ 頸部(頸部部)

  • 頸部では枝を出さない
  • 内頸静脈の内側を上行

◎ 錐体部(岩様部)

  • 側頭骨の頸動脈管を通過
  • 鼓室へ小枝を出す

◎ 海綿静脈洞部

  • 海綿静脈洞内をS字状に走行
  • 周囲に脳神経が存在

◎ 脳部(終末部)

頭蓋内で以下の終枝へ分かれます。



◆ 主な分枝

眼動脈

  • 眼球
  • 視神経
  • 眼窩構造

◎ 後交通動脈

◎ 前脈絡叢動脈

  • 脈絡叢
  • 視索
  • 内包


◆ 終枝

これらは大脳半球前方2/3の血流を担います。



◆ ウィリス動脈輪

内頸動脈は、 脳底部でウィリス動脈輪(Circle of Willis)を形成します。

この動脈輪は、

によって構成され、 脳血流の側副循環として機能します。



◆ 支配領域

  • 大脳半球前部
  • 大脳半球側面
  • 基底核
  • 視覚系
  • 眼球

特に運動・感覚・言語機能に重要な領域を灌流します。



◆ 臨床的関連

◎ 内頸動脈狭窄

  • 動脈硬化が主原因
  • 脳梗塞の主要原因

◎ 一過性脳虚血発作(TIA)

  • 一時的な脳血流低下
  • 視野障害
  • 片麻痺

◎ 頸動脈内膜剥離術

高度狭窄では外科的治療が行われます。

◎ 内頸動脈瘤

脳動脈瘤の好発部位の一つです。



◆ 東洋医学的観点

内頸動脈が灌流する脳は、 東洋医学では以下の概念と関係します。

  • 脳=髄海
  • 腎精によって養われる
  • 心血が神志を支える

つまり脳循環は

  • 心(血)
  • 肝(血の調節)
  • 腎(精)

の相互作用で維持されると考えられます。



◆ 鍼灸臨床との関連

内頸動脈循環の低下は、 以下の症状と関連する可能性があります。

  • めまい
  • 頭痛
  • 記憶力低下
  • 視覚障害
  • 脳血管障害後遺症

臨床では以下の経穴が用いられることがあります。

これらは頭部循環や自律神経調整を目的として使用されます。



◆ まとめ

内頸動脈は、 脳と視覚機能を支える最重要動脈の一つであり、 神経機能維持に不可欠な血管です。