胸筋神経(pectoral nerves)まとめ

概要

胸筋神経は腕神経叢から分岐し、 大胸筋および小胸筋を支配する運動神経である。 外側胸筋神経と内側胸筋神経の2本が存在する。 胸部前面の筋機能および肩関節の安定に重要な役割を持つ。


分類と構成


外側胸筋神経(Lateral pectoral nerve)
  • 起始:外側神経束
  • 神経根:C5–C7

内側胸筋神経(Medial pectoral nerve)
  • 起始:内側神経束
  • 神経根:C8–T1

走行


外側胸筋神経

鎖骨下筋の下方を通り、 胸肩峰動脈と伴走しながら 大胸筋深層へ進入する。


内側胸筋神経

腋窩動脈の内側を走行し、 小胸筋を貫通した後、 大胸筋へ枝を送る。


主な枝


支配筋


支配領域(感覚)

  • なし(純運動神経)

機能


臨床的ポイント

  • 乳癌手術時の損傷リスク
  • 大胸筋萎縮
  • 肩前面の筋力低下
  • 小胸筋短縮による胸郭出口症候群との関連

関連する筋


関連する血管

  • 胸肩峰動脈(特に胸筋枝)
  • 外側胸動脈

東洋医学的観点

胸筋神経の走行および症状は、 手の太陰肺経および足の陽明胃経の胸部走行と関連が深い。


関連経絡・経穴

臨床では中府(LU1)雲門(LU2)屋翳(ST16)膺窓(ST16)などが応用される。


まとめ

胸筋神経は大胸筋小胸筋を支配し、 肩関節の前面安定および上肢運動に重要な役割を担う。 外側胸筋神経と内側胸筋神経の二系統が存在し、 乳癌手術や腋窩手術時の解剖理解が重要である。

長胸神経(Long thoracic nerve)まとめ

概要

長胸神経は腕神経叢の神経根から直接分岐する運動神経であり、 前鋸筋を支配する唯一の神経である。 肩甲骨の前方固定および上方回旋に重要で、 障害時には特徴的な翼状肩甲を呈する。


構成

  • C5
  • C6
  • C7

走行

長胸神経はC5〜C7神経根から直接分岐し、 中斜角筋の後方を通過する。

その後、胸壁外側を下降し、 前鋸筋の表層に沿って走行しながら 各筋束へ分布する。


主な枝


支配筋


支配領域(感覚)

  • なし(運動神経)

機能


臨床的ポイント

  • 翼状肩甲
  • 壁押しテスト陽性
  • 乳癌手術後の神経損傷
  • 上肢挙上困難

関連する筋


関連する血管

  • 外側胸動脈

東洋医学的観点

長胸神経の走行および症状は、 東洋医学における足の少陽胆経および 手の太陰肺経と関連がみられる。


関連経絡・経穴

臨床では淵腋(GB22)期門(LR14)中府(LU1)などが 長胸神経関連症状に応用される。


まとめ

長胸神経は前鋸筋を支配し、 肩甲骨安定機構の中核を担う神経である。 障害時には翼状肩甲という典型的所見を呈し、 上肢挙上機能に大きく影響する。

肩甲下神経(Subscapular nerve)まとめ

"Image courtesy of Visible Body"(画像提供:Visible Body)

概要

肩甲下神経は腕神経叢の後神経束から分岐する運動神経であり、 肩関節内旋および安定化に重要な役割を担う。 通常、上肩甲下神経と下肩甲下神経の2枝に分かれる。


構成

  • C5
  • C6

走行

肩甲下神経は後神経束から分岐し、 肩甲下筋前面へ向かう。

上肩甲下神経は肩甲下筋上部を支配し、 下肩甲下神経は肩甲下筋下部および 大円筋へ分布する。


主な枝

  • 上肩甲下神経
  • 下肩甲下神経

支配筋


支配領域(感覚)

  • なし(運動神経)

機能


臨床的ポイント


関連する筋


関連する血管

  • 肩甲下動脈

東洋医学的観点

肩甲下神経の走行および症状は、 東洋医学における手の厥陰心包経および 手の太陽小腸経と関連がみられる。


関連経絡・経穴

臨床では曲沢(PC3)天宗(SI11)肩貞(SI9)などが 肩甲下神経関連症状に応用される。


まとめ

肩甲下神経は肩関節内旋と前方安定性を担う重要な運動神経であり、ローテーターカフ機構の一角を構成する。 肩前方不安定症や内旋障害の評価に不可欠である。

肩甲背神経(Dorsal scapular nerve)まとめ

概要

肩甲背神経は腕神経叢の神経根から直接分岐する神経であり、 肩甲骨内側の安定化と挙上に関与する。 菱形筋および肩甲挙筋を支配し、 肩甲骨の内転・固定機能に重要な役割を担う。


構成

  • C5

走行

肩甲背神経はC5神経根から直接分岐し、 中斜角筋を貫通して後方へ向かう。

その後、肩甲骨内側縁に沿って下降し、 菱形筋群および肩甲挙筋へ分布する。


主な枝

  • 肩甲挙筋枝
  • 小菱形筋枝
  • 大菱形筋枝

支配筋


支配領域(感覚)

  • なし(運動神経)

機能


臨床的ポイント

  • 肩甲骨内側縁痛
  • 菱形筋筋力低下
  • 肩甲骨外転傾向(軽度翼状肩甲)
  • デスクワーク姿勢との関連

関連する筋


関連する血管


東洋医学的観点

肩甲背神経の走行および症状は、 東洋医学における手の太陽小腸経および 足の太陽膀胱経と関連が深い。

  • 肩甲内側痛:小腸経の気滞
  • 慢性肩背部緊張:膀胱経の瘀血
  • 姿勢不良由来の疼痛:肝血不足

関連経絡・経穴

臨床では天宗(SI11)肩外兪(SI14)附分(BL41)などが 肩甲背神経関連症状に応用される。


まとめ

肩甲背神経は肩甲骨内側安定機構を担う重要な神経であり、 姿勢保持および上肢機能の基盤を形成する。 慢性肩背部痛では評価対象とすべき神経である。

肩甲上神経(Suprascapular nerve)まとめ


概要

肩甲上神経は腕神経叢上神経幹から分岐し、 棘上筋および棘下筋を支配する重要な運動神経である。 肩関節外転初動および外旋機能に関与し、 スポーツ障害(特に投球動作)と関連が深い。


構成

  • C5
  • C6

走行

肩甲上神経は腕神経叢の上神経幹から起こり、 肩甲骨上縁へ向かう。

その後、肩甲切痕を通過し、 棘上窩へ入り棘上筋へ枝を出す。

さらに肩甲棘外側縁(肩甲棘下縁)を回り込み、 棘下窩へ至り棘下筋を支配する。


主な枝

  • 棘上筋枝
  • 棘下筋枝
  • 関節枝(肩関節)

支配筋


支配領域(感覚)


機能


臨床的ポイント

  • 肩甲切痕部での絞扼(肩甲上神経障害)
  • 棘上筋棘下筋萎縮
  • 外旋力低下
  • 野球肩・オーバーヘッド動作障害

関連する筋


関連する血管


東洋医学的観点

肩甲上神経の走行および症状は、 東洋医学における手の太陽小腸経および 足の少陽胆経と関連が深い。

  • 肩後上部痛:小腸経の気滞
  • 外旋力低下:胆経の失調
  • 投球障害:肝血不足

関連経絡・経穴

臨床では天宗(SI11)秉風(SI12)肩井(GB21)などが 肩甲上神経関連症状に応用される。


まとめ

肩甲上神経はローテーターカフの中核を担う神経であり、 肩関節外転初動および外旋機能に不可欠である。 肩甲切痕部での絞扼は臨床的に重要であり、 スポーツ選手では特に注意を要する。

横隔神経(Phrenic nerve)まとめ

概要

横隔神経は頸神経叢から分岐し、 横隔膜を支配する唯一の運動神経である。 呼吸運動の中枢的役割を担い、 生命維持に不可欠な神経である。


構成

  • C3
  • C4
  • C5

※「C3–5 keeps the diaphragm alive」と覚えられる。


走行

横隔神経は前斜角筋の前面を下降し、 胸郭入口を通過して縦隔へ入る。

その後、心膜の外側を下行し、 横隔膜中央腱へ分布する。


主な枝

  • 横隔膜枝(運動)
  • 心膜枝
  • 胸膜枝
  • 腹膜枝

支配筋


支配領域(感覚)


機能

  • 吸気時の横隔膜収縮
  • 胸腔内圧調整
  • 呼吸リズム形成への関与

臨床的ポイント

  • 横隔神経麻痺(片側呼吸障害)
  • 吃逆(しゃっくり)
  • 頸椎損傷(C3–5)による呼吸停止
  • 横隔膜挙上(X線所見)

関連する筋


関連する血管

  • 心横隔動脈
  • 筋横隔動脈

東洋医学的観点

横隔神経の機能は、 東洋医学における足の少陰腎経および 手の太陰肺経と関連が深い。


関連経絡・経穴

臨床では膻中(CV17)中府(LU1)太渓(KI3)などが 横隔神経関連症状に応用される。


まとめ

横隔神経は呼吸運動を司る生命維持神経であり、 C3–5の機能評価は臨床上極めて重要である。 頸部損傷や胸部手術時には必ず考慮すべき神経である。

頸神経ワナ(Ansa cervicalis)まとめ

概要

頸神経ワナは頸神経叢から形成される神経ループであり、 舌骨下筋群を支配する運動神経回路である。 嚥下・発声・喉頭位置調整に関与し、 頸部前面機能の制御に重要な役割を担う。


構成


形成

C1線維は一時的に舌下神経(Ⅻ)と伴走し、 その後分離して上根を形成する。

C2・C3からの下根と合流し、 頸動脈鞘前面にてループ(ワナ)を形成する。


走行

頸神経ワナは頸動脈鞘の前壁に沿って走行し、舌骨下筋群へ枝を分布する。


主な枝


支配筋

甲状舌骨筋はC1線維が舌下神経を介して支配する。


支配領域(感覚)

  • なし(運動神経)

機能

  • 舌骨の下制
  • 嚥下時の喉頭調整
  • 発声補助

臨床的ポイント

  • 甲状腺手術時の損傷リスク
  • 嚥下障害
  • 頸部前面緊張との関連

関連する筋


関連する血管


東洋医学的観点

頸神経ワナの機能は、 東洋医学における任脈および 足の少陰腎経と関連する。


関連経絡・経穴

臨床では天突(CV22)廉泉(CV23)復溜(KI7)などが 関連症状に応用される。


まとめ

頸神経ワナは舌骨下筋群を制御する運動神経ループであり、 嚥下・発声・喉頭安定に重要な役割を担う。 頸部手術や嚥下障害評価において理解が不可欠である。