甲状頸動脈(Thyrocervical trunk)まとめ

甲状頸動脈は、鎖骨下動脈の第1部から分岐する短い動脈幹であり、主に頸部・肩甲帯・甲状腺へ血液を供給する。

非常に短い幹で、すぐに複数の枝へ分岐するのが特徴である。


主な分枝

①下甲状腺動脈

  • 甲状腺への主要血管
  • 食道・気管・喉頭にも枝を出す
  • 反回神経と近接する

②頸横動脈

  • 僧帽筋・肩甲背部へ分布
  • 深枝は肩甲背動脈として働くことがある

肩甲上動脈

④上行頸動脈
  • 深頸筋群へ血流
  • 頸椎周囲へ血液供給

解剖学的ポイント


臨床的意義

甲状腺手術

下甲状腺動脈は甲状腺手術で重要な血管であり、反回神経との位置関係が特に重要である。
この神経損傷は嗄声や発声障害の原因となる。

肩甲骨周囲動脈吻合

肩甲上動脈や頸横動脈は肩甲骨周囲の動脈ネットワークを構成し、鎖骨下動脈腋窩動脈が閉塞した際の側副循環として働く。

頸部筋緊張との関係

頸横動脈や上行頸動脈は、僧帽筋肩甲挙筋・深頸筋群などの血流を担うため、頸肩部の筋緊張や慢性肩こりとの関連が臨床的に指摘される。


東洋医学的関連

「頸肩部の気血循環」との関係

甲状頸動脈が灌流する領域は、東洋医学でいう肩井天柱風池周囲の気血循環と重なる。
これらの部位は肩こり・頭痛・頸部緊張の治療で重要な経穴が集中する領域である。

甲状腺と「腎・気化作用」

甲状腺は東洋医学で明確な臓腑に対応するわけではないが、代謝調節という観点から腎・三焦の気化作用と関連づけて解釈されることがある。

肩甲帯と手太陽小腸経・手少陽三焦経

頸横動脈や肩甲上動脈が栄養する肩甲骨周囲は、手太陽小腸経手少陽三焦経の走行と重なる。

これらの経絡は

  • 肩背部痛
  • 頸部緊張
  • 耳鳴り
  • 側頭部頭痛

などの症状と深く関係する。


鍼灸臨床との関連

肩こり治療

頸横動脈は僧帽筋など肩背部筋群を栄養するため、肩こりの治療で使用される経穴は、この血流改善とも関係すると考えられる。

肩関節疾患

肩甲上動脈棘上筋棘下筋を栄養するため、

などの循環改善と関連する可能性がある。

甲状腺機能調整

鍼灸では、甲状腺疾患に対して

などを用い、内分泌調整・自律神経調整を図ることがある。
甲状頸動脈はこれら頸部周囲組織の血流を担う重要な血管である。


まとめ

  • 甲状頸動脈は鎖骨下動脈から分岐する短い動脈幹
  • 甲状腺・頸部筋・肩甲骨周囲へ血液供給
  • 肩甲骨周囲動脈吻合の一部を構成
  • 頸肩部の筋緊張や肩こりと関連
  • 東洋医学では頸肩部の気血循環や経絡走行と重なる領域

肋頸動脈(costocervical trunk)まとめ

◆ 概要

肋頸動脈(costocervical trunk)は、鎖骨下動脈から分岐する動脈であり、 主に上位肋間部と頸部深層筋へ血液を供給する血管です。

比較的短い動脈ですが、 背部・頸部深部の筋群および上位肋間の循環に関与する重要な血管であり、 頸部と胸郭後部の血流をつなぐ役割を持ちます。


◆ 起始

左右で分岐位置がやや異なることがあります。


◆ 走行

肋頸動脈は鎖骨下動脈から後方へ向かって短く走行し、 すぐに以下の2枝へ分岐します。

  • 深頸動脈
  • 最上肋間動脈

◆ 主な分枝

◎ 深頸動脈(deep cervical artery)

後頭動脈などと吻合します。

◎ 最上肋間動脈(supreme intercostal artery)

  • 第1肋間動脈
  • 第2肋間動脈

上位肋間筋や胸壁へ血流を供給します。


◆ 支配領域

特に頸胸移行部(C7〜T2)周囲の循環に関係します。


◆ 血管吻合

肋頸動脈の枝は以下の動脈と吻合します。

これにより頸部背側の側副循環が形成されます。


◆ 臨床的関連

◎ 胸郭出口症候群

鎖骨下動脈周囲の圧迫では、 肋頸動脈の血流にも影響が及ぶ可能性があります。

◎ 頸部外傷

頸部深層の損傷では、 深頸動脈から出血することがあります。

◎ 脊椎周囲循環

肋頸動脈の枝は脊椎周囲の血流にも関与します。


◆ 東洋医学的観点

肋頸動脈が分布する領域は、 東洋医学では主に以下の経絡が走行する部位に相当します。

これらの経絡は背部の気血循環を調整する重要な経路とされ、 肩背部の筋緊張や頸肩こりと深く関係します。


◆ 鍼灸臨床との関連

肋頸動脈の循環が関係する可能性のある症状には、 以下のものがあります。

  • 頸肩こり
  • 肩背部痛
  • 後頭部痛
  • 上背部の筋緊張

臨床では以下の経穴が用いられます。

これらの経穴刺激により、 頸部・背部の血流改善や筋緊張緩和が期待されます。


◆ まとめ

  • 鎖骨下動脈から分岐する短い動脈
  • 深頸動脈と最上肋間動脈へ分岐
  • 頸部深層筋と上位肋間を栄養
  • 背部循環の側副血行路を形成
  • 頸肩部の筋循環と関係

肋頸動脈は、 頸部深層と上位胸壁を結ぶ循環を担う重要な動脈です。

脳動脈(cerebral arteries)まとめ

◆ 概要

脳動脈は、脳へ血液を供給する動脈群の総称であり、 主に内頸動脈系(前方循環)椎骨動脈‐脳底動脈系(後方循環)の2系統によって構成されます。

これらの動脈は脳底部でウィリス動脈輪を形成し、 脳循環の側副血行路として機能します。


◆ 脳循環の2系統

◎ 前方循環(内頸動脈系)

  • 前大脳動脈
  • 中大脳動脈

主に大脳半球前部および側面へ血液を供給します。

◎ 後方循環(椎骨動脈系)

脳幹・小脳・後頭葉へ血流を供給します。


◆ 主な脳動脈

◎ 前大脳動脈(ACA)

  • 大脳半球内側面
  • 下肢運動野
  • 前頭葉内側

閉塞すると下肢優位の運動麻痺が生じることがあります。

◎ 中大脳動脈(MCA)

  • 大脳半球外側面
  • 運動野
  • 感覚野
  • 言語中枢

脳梗塞で最も頻繁に障害される動脈です。

◎ 脳底動脈(basilar artery)

  • 左右の椎骨動脈が合流して形成
  • 橋前面を走行

脳幹や小脳へ血液を供給します。

◎ 後大脳動脈(PCA)

  • 後頭葉
  • 視覚野
  • 視覚情報処理領域

障害されると視野欠損が生じることがあります。


◆ 小脳動脈

◎ 上小脳動脈(SCA)

◎ 前下小脳動脈(AICA)

  • 小脳前下部
  • 内耳構造

◎ 後下小脳動脈(PICA)

PICAの閉塞はワレンベルグ症候群の原因となることがあります。


◆ ウィリス動脈輪

脳底部には以下の動脈が連結して ウィリス動脈輪(Circle of Willis)が形成されます。

  • 前大脳動脈
  • 前交通動脈
  • 内頸動脈
  • 後交通動脈
  • 後大脳動脈

この構造は脳血流の側副循環として重要です。


◆ 臨床的関連

  • 脳梗塞
  • 脳動脈瘤
  • 一過性脳虚血発作(TIA)
  • 脳幹梗塞

脳動脈の閉塞や破裂は、 運動障害・感覚障害・言語障害などの神経症状を引き起こします。


◆ 東洋医学的観点

東洋医学では脳は「髄海」と呼ばれ、 主に腎精によって養われると考えられます。

また脳の働きは

  • 心(神志)
  • 肝(気血の巡り)
  • 腎(精)

の協調によって維持されるとされています。


◆ 鍼灸臨床との関連

脳循環の低下や神経機能障害に関連する症状として、 以下が挙げられます。

  • めまい
  • 頭痛
  • 脳血管障害後遺症
  • 記憶力低下

臨床では以下の経穴が使用されます。

これらの刺激により、 脳血流調整や自律神経バランスの改善が期待されます。


◆ まとめ

  • 脳動脈は前方循環と後方循環の2系統
  • 前大脳動脈・中大脳動脈が大脳前部を灌流
  • 脳底動脈・後大脳動脈が脳幹・後頭葉を灌流
  • 小脳動脈が小脳へ血流供給
  • ウィリス動脈輪が側副循環を形成

脳動脈は神経機能を維持するための最重要循環系であり、 わずかな血流障害でも重大な神経症状を引き起こします。

顎関節の特徴と関連する経穴・臨床ポイント

概要

顎関節は、下顎骨側頭骨の間に形成される滑膜関節で、咀嚼・会話・嚥下などの日常生活に不可欠な運動を担う関節です。
関節円板を介して上下2つの関節腔に分かれる特徴的な構造を持ち、
回転運動(蝶番運動)と滑走運動の組み合わせによって開口・閉口・前後運動・側方運動を行います。



構成する骨



関節の種類

滑膜関節(複合関節・蝶番滑走関節)



関節の構造

  • 関節円板(線維軟骨)
  • 上関節腔(滑走運動)
  • 下関節腔(回転運動)


運動

  • 開口(下制)
  • 閉口(挙上)
  • 前方運動(前突)
  • 後方運動(後退)
  • 側方運動


支持する靭帯

  • 外側靭帯(顎関節靭帯)
  • 蝶下顎靭帯
  • 茎突下顎靭帯
  • 関節包


作用筋(咀嚼筋)

閉口筋

開口筋



ランドマーク(触診)

  • 耳珠の前方約1cmに関節部がある
  • 開口・閉口時に下顎頭の動きを触知可能
  • 開口時のクリック音は関節円板の偏位を示唆することがある


臨床で重要なポイント

  • 顎関節症(TMJ disorder)
  • 開口障害
  • クリック音・関節雑音
  • 咀嚼筋の緊張
  • 頭痛・耳鳴り・頸肩こりとの関連
  • 歯ぎしり(ブラキシズム)


東洋医学的関連

顎関節周囲は手足の陽経が集中する重要な部位であり、特に顔面を走行する
足の陽明胃経手の少陽三焦経足の少陽胆経の影響を強く受けます。
また顎関節の緊張は肝気鬱結・ストレス・情志の停滞とも関係が深いとされます。

関連する主な経絡

顎関節周囲の代表的経穴

遠隔治療穴(よく使われる)

鍼灸臨床での関連

  • 顎関節症
  • 開口障害
  • 歯ぎしり・食いしばり
  • 側頭部頭痛
  • 耳鳴り・耳閉感
  • ストレス関連症状

顎関節は咀嚼筋・頸部筋・姿勢(特に頭位)と密接に関係するため、
鍼灸治療では局所+頸部+遠隔穴を組み合わせて調整することが多い部位です。

胸筋まとめ

胸筋は胸部前面に位置する筋群で、主に肩関節の運動(内転・内旋・屈曲)上肢の固定に関与します。また、上肢が固定された状態では呼吸補助筋として胸郭の拡張にも関わります。



◆ 構成筋



◆ 起始・停止・作用・神経支配

筋名 起始 停止 主作用 神経支配
大胸筋 鎖骨内側半
胸骨前面
第1〜6肋軟骨
腹直筋鞘
上腕骨大結節稜 肩関節内転
内旋
屈曲
内側胸筋神経
外側胸筋神経
小胸筋 第3〜5肋骨 肩甲骨烏口突起 肩甲骨前方移動
肩甲骨下制
呼吸補助
内側胸筋神経


◆ 機能的特徴

  • 上肢の内転・内旋の主働筋(大胸筋
  • 押す動作(腕立て・ベンチプレス)に関与
  • 小胸筋肩甲骨の安定化に関与
  • 上肢固定時は呼吸補助筋として働く


◆ 触診ポイント

  • 大胸筋胸部前面に広く触知可能
  • 腕を内転・内旋させると収縮を確認
  • 小胸筋大胸筋深層、烏口突起周囲で圧痛確認


◆ 臨床的特徴

  • 巻き肩(ラウンドショルダー)の原因筋
  • 小胸筋短縮は肩甲骨前傾を生じる
  • 胸郭出口症候群(TOS)との関連
  • 肩関節インピンジメント症候群の要因


◆ 関連症状

  • 肩前面の痛み
  • 肩甲骨外転姿勢
  • 胸部の圧迫感
  • 腕のしびれ(胸郭出口症候群)


◆ 東洋医学的関連


胸筋は上肢運動だけでなく姿勢・呼吸機能にも影響する重要な筋群です。特に小胸筋の短縮は姿勢不良の大きな要因となります。

咀嚼筋まとめ

咀嚼筋は、顎関節を動かし、咀嚼(食物を噛む動作)を行う筋群です。これらの筋はすべて三叉神経第3枝(下顎神経)によって支配されます。

咀嚼筋は、下顎骨を動かす4つの筋から構成され、咀嚼運動・発音・顎関節の安定に重要な役割を持ちます。


◆ 構成筋



◆ 起始・停止・作用・神経支配

筋名 起始 停止 主作用 神経支配
咬筋 頬骨弓 下顎骨下顎枝外側面 下顎挙上(口を閉じる) 下顎神経(V3)
側頭筋 側頭窩 下顎骨筋突起 下顎挙上・後退 下顎神経(V3)
内側翼突筋 翼突窩 下顎骨内側面 下顎挙上・側方運動 下顎神経(V3)
外側翼突筋 蝶形骨大翼・外側翼突板 下顎骨・関節円板 下顎前突・開口 下顎神経(V3)


◆ 咀嚼運動のメカニズム



◆ 触診ポイント



◆ 臨床的特徴

  • 顎関節症(TMD)との関連が強い
  • 歯ぎしり(ブラキシズム)で過緊張
  • 側頭筋は緊張性頭痛の原因となる
  • 咬筋肥大はストレスと関連


◆ 関連症状

  • 顎関節痛
  • 開口障害
  • 側頭部痛
  • 耳周囲痛


◆ 東洋医学的関連


咀嚼筋は顎関節運動の主動筋であり、顎関節症・頭痛・ストレス関連症状と密接に関係する重要な筋群です。

表情筋まとめ

表情筋は、顔面に存在する皮筋群であり、皮膚に付着して表情を作るという特徴を持ちます。多くの骨格筋が骨から骨へ付着するのに対し、表情筋は骨 → 皮膚に付着するため、顔の細かな表情変化を可能にします。

すべての表情筋は顔面神経(第Ⅶ脳神経)によって支配されます。


◆ 表情筋の特徴


◆ 主な表情筋

部位 筋名 主な作用
前頭部 後頭前頭筋(前頭腹) 眉を上げる、額のしわを作る
眼周囲 眼輪筋 眼瞼を閉じる
鼻部 鼻筋 鼻孔の開閉、鼻背のしわ形成
口周囲 口輪筋 口唇を閉じる、突出
頬部 頬筋 頬を引き締める、咀嚼補助
頸部 広頚筋 口角を下げる、頸部皮膚を緊張

◆ 機能的分類

① 眼周囲筋

② 鼻筋群

③ 口周囲筋

  • 口輪筋
  • 大頬骨筋
  • 小頬骨筋
  • 口角挙筋
  • 口角下制筋
  • 笑筋
  • オトガイ筋

◆ 支配神経

顔面神経(第Ⅶ脳神経)

顔面神経は耳下腺内で枝分かれし、以下の5枝に分布します。

  • 側頭枝
  • 頬骨枝
  • 頬筋枝
  • 下顎縁枝
  • 頸枝

◆ 臨床的特徴

  • 顔面神経麻痺(ベル麻痺)で表情筋麻痺
  • 閉眼不能(兎眼)
  • 口角下垂
  • 鼻唇溝の消失

◆ 東洋医学的関連


表情筋は「顔面神経機能・感情表現・咀嚼補助」を担う重要な筋群であり、顔面神経麻痺の評価において極めて重要です。