下顎骨(mandible)の特徴と筋付着部
骨の名称
- 和名:下顎骨(かがくこつ)
- 英名:Mandible
- ラテン名:Mandibula
分類
- 不規則骨
- 顔面骨の中で最大・最強の骨。
- 下顎歯を保持し、下顎の運動(開閉口・前後左右運動)を担う。
特徴・ランドマーク
- 体部(body):
- オトガイ隆起(mental protuberance):顎の中央部、顎先の膨らみ。
- オトガイ孔(mental foramen):第2小臼歯付近にあり、オトガイ神経・動脈が通過。
- 歯槽部(alveolar part):下顎歯を支える部分。
- オトガイ舌筋棘(mental spine):内面正中部の突起。オトガイ舌筋・オトガイ舌骨筋が起始。
- 枝(ramus):
- 下顎角(angle of mandible):体部と枝の境界。咬筋・内側翼突筋の停止部。
- 筋突起(coronoid process):側頭筋停止部。
- 下顎切痕(mandibular notch):筋突起と顆状突起の間のくぼみ。
- 関節突起(condylar process):下顎頭を形成し、側頭骨の下顎窩と関節(顎関節)を構成。
- 下顎孔(mandibular foramen):内面中央付近にあり、下歯槽神経・動脈が通る。
構成関節
- 側頭骨の下顎窩および関節結節と関節を形成 → 顎関節(temporomandibular joint, TMJ)
- 関節円板(articular disc)を介して滑膜性二関節腔を持ち、蝶番運動と滑走運動を行う。
筋付着
- 起始する筋:なし(全て停止筋)
- 停止する筋(下顎骨に付着する筋):
- 外側面:
- 咬筋(下顎角外側面)
- 口角下制筋(オトガイ下外側)
- オトガイ筋(オトガイ隆起付近)
- 下唇下制筋(オトガイ孔周囲)
- 内面:
神経支配(関連する筋を通じて)
- 下顎神経(V₃, 三叉神経第3枝) → 咀嚼筋(咬筋・側頭筋・翼突筋など)を支配。
- 顔面神経(VII) → 表情筋(オトガイ筋・下唇下制筋・口角下制筋など)を支配。
- 舌下神経(XII) → オトガイ舌骨筋・舌筋群を支配。
- オトガイ神経(下歯槽神経の枝) → 下顎前面皮膚・下唇・オトガイ部感覚。
血管との関係
- 下歯槽動脈:下顎孔から進入し、下歯槽神経とともに歯列を栄養。
- オトガイ動脈:オトガイ孔から出てオトガイ・下唇へ。
- 顔面動脈・顎動脈が周囲を走行し、豊富な吻合を形成。
臨床的意義
- 下顎骨骨折:交通事故やスポーツ外傷で多く、オトガイ部・角部・関節突起部に好発。
- 顎関節症(TMJ disorder):
- 顎関節円板の偏位、咬合異常、ストレスなどによる機能障害。
- 開口障害・顎雑音・疼痛が主症状。
- 下歯槽神経麻痺:下顎孔周囲の損傷で下唇・オトガイ部の感覚鈍麻が出現。
- 歯科麻酔:下歯槽神経伝達麻酔は下顎孔付近を標的とする。
触診ポイント
- 下顎角(エラ)・オトガイ隆起は容易に触知できる。
- オトガイ孔は第2小臼歯の下方を軽く圧するとわかる。
- 顎運動時に筋突起の動きを頬骨弓下で確認できる。
東洋医学的関連
- 関連経絡:手陽明大腸経、足陽明胃経、督脈。
- 関連経穴:
- 承漿(CV24)[任脈]:オトガイ中央の陥凹部。口腔疾患・下顎痛・唾液異常に効果。
- 地倉(ST4)[足陽明胃経]:口角外方。咀嚼筋群との連動で顔面麻痺に用いる。
- 頰車(ST6)[足陽明胃経]:咬筋中央部。顎関節症・歯痛に有効。
- 合谷(LI4)[手陽明大腸経]:顔面部疾患全般に通じる代表経穴。
- 古典的考え方:下顎骨は「腎気と骨気のあらわれ」であり、咬合力や顎関節の不調は腎虚や肝鬱と関連づけられる。
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