側頭骨(Temporal bone)の特徴と筋付着部
骨の名称
- 和名:側頭骨
- 英名:Temporal bone
- ラテン名:Os temporale
分類
- 扁平骨に分類される。
- 頭蓋の外側壁と底部の一部を形成し、聴覚・平衡感覚器を保護する複雑な構造をもつ。
概要
- 側頭骨は頭蓋の左右に一対存在し、鱗部・鼓室部・岩様部(錐体部)・乳様部の4部分から構成される。
- 内耳(蝸牛・三半規管)や中耳腔を包み、下顎骨と関節を形成する。
- 多数の孔を持ち、顔面神経や内耳神経、内頸動脈などが通過する。
構成部位・ランドマーク
- 鱗部(squamous part):扁平な部分で、側頭筋が付着する。下顎窩を形成し、下顎骨と関節する。
- 鼓室部(tympanic part):外耳道(外耳孔)を形成し、外耳と中耳を隔てる。
- 岩様部(petrous part):最も堅固な部分で、内耳を包む。内耳道を含む。
- 乳様部(mastoid part):耳の後方に位置し、乳様突起が突出。胸鎖乳突筋が付着する。
- 茎状突起(styloid process):細長い突起で、舌骨や咽頭の筋・靱帯が付着する。
- 下顎窩(mandibular fossa):下顎骨の下顎頭と関節して顎関節を形成する。
孔および通過構造
- 内耳道(internal acoustic meatus):顔面神経(VII)・内耳神経(VIII)が通過。
- 外耳道(external acoustic meatus):外耳孔から鼓膜に至る。
- 茎乳突孔(stylomastoid foramen):顔面神経(VII)の出口。
- 頸動脈管(carotid canal):内頸動脈が通る。
- 頸静脈孔(jugular foramen):内頸静脈、舌咽神経(IX)、迷走神経(X)、副神経(XI)が通過(後頭骨と共有)。
- 乳突洞(mastoid antrum):中耳腔と交通する空洞。
構成関節
- 顎関節(temporomandibular joint):下顎窩と下顎頭の間。関節円板を介して可動。
- 縫合:鱗状縫合(頭頂骨と)、後頭乳突縫合(後頭骨と)、蝶形骨鱗状縫合(蝶形骨と)で連結。
筋付着
神経・血管との関係
- 顔面神経(VII):内耳道から入り、顔面神経管を通過し、茎乳突孔から出る。
- 内耳神経(VIII):内耳道で内耳へ分岐(蝸牛神経・前庭神経)。
- 内頸動脈:頸動脈管を通り、頭蓋内に入る。
- 内頸静脈:頸静脈孔を通過。
- 中硬膜動脈:側頭鱗部内面を走行し、外傷で硬膜外血腫の原因となる。
臨床的意義
- 側頭骨骨折:交通事故や頭部打撲で発生。中耳・内耳損傷、顔面神経麻痺を伴うことがある。
- 中耳炎の波及:乳突洞や硬膜下への感染拡大により乳様突起炎・髄膜炎を起こすことがある。
- 顎関節症:下顎窩との不適合により、咀嚼時の痛みや雑音を生じる。
- 硬膜外血腫:側頭鱗部骨折で中硬膜動脈が破れると発生。
- 顔面神経麻痺:茎乳突孔付近の炎症・圧迫でベル麻痺を起こす。
触診ポイント
- 耳介後方に触れる突起が乳様突起。
- 咀嚼時に下顎窩周囲の動きを触診することで顎関節の機能を評価できる。
- 乳様突起の圧痛は中耳炎・乳様突起炎の重要なサインとなる。
東洋医学的関連
- 関連経絡:手の少陽三焦経、足の少陽胆経、手の太陽小腸経。
- 代表的経穴:
- 側頭部は「風邪(ふうじゃ)」の侵入しやすい部位であり、風熱による頭痛や耳疾患の治療点として重要視される。
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