蝶形骨(sphenoid bone)の特徴と筋付着部
骨の名称
- 和名:蝶形骨(ちょうけいこつ)
- 英名:Sphenoid bone
- ラテン名:Os sphenoidale
分類
- 不規則骨に分類。
- 頭蓋底中央部に位置し、脳頭蓋と顔面頭蓋の両方に関与する。
概要
- 頭蓋底の中央に位置し、前頭骨・側頭骨・頭頂骨・後頭骨・篩骨・上顎骨など、多数の骨と連結する。
- 形が蝶に似ていることから名づけられた。
- 中枢神経(視神経・下垂体・内頸動脈など)や多くの血管・神経が通過する孔を持つ。
- 蝶形骨洞(sphenoidal sinus)は副鼻腔の一つで、上気道と連絡している。
形態・構造
- 中央に体部(body)があり、左右に大翼(greater wing)・小翼(lesser wing)が広がる。
- 下方には翼突突起(pterygoid process)が垂れ下がる。
- 上面中央にはトルコ鞍(sella turcica)があり、その中央に下垂体窩(hypophyseal fossa)を形成する。
- 前面には蝶形骨洞の開口部があり、鼻腔と交通する。
主なランドマーク
- トルコ鞍(sella turcica):下垂体を収める凹所。
- 前床突起・後床突起(anterior/posterior clinoid process):テント切痕を支えるテント索の付着部。
- 視神経管(optic canal):視神経および眼動脈が通過。
- 上眼窩裂(superior orbital fissure):動眼・滑車・外転・三叉神経第1枝などが通過。
- 正円孔(foramen rotundum):三叉神経第2枝(上顎神経)。
- 卵円孔(foramen ovale):三叉神経第3枝(下顎神経)。
- 棘孔(foramen spinosum):中硬膜動脈が通る。
- 翼状突起(pterygoid process):外側・内側翼突筋などの付着部。
関節する骨
- 前頭骨(前上方)
- 頭頂骨(上方)
- 側頭骨(外側)
- 後頭骨(後方)
- 篩骨(前方)
- 頬骨・上顎骨・口蓋骨・鋤骨(前下方)
筋付着
- 起始する筋:
- 外側翼突筋(翼突突起外側板)
- 内側翼突筋(翼突突起内側板)
- 上頭直筋・下頭斜筋(蝶形骨体部)
- 眼窩上斜筋(蝶形骨小翼上縁)
- 咬筋・側頭筋・顎二腹筋後腹の支持構造に関与
- 停止する筋:
神経・血管との関係
- 視神経(CN II):視神経管を通過。
- 動眼神経(CN III)、滑車神経(CN IV)、外転神経(CN VI)、三叉神経第1枝(CN V1):上眼窩裂を通過。
- 三叉神経第2枝(CN V2):正円孔を通過。
- 三叉神経第3枝(CN V3):卵円孔を通過。
- 中硬膜動脈:棘孔を通過し硬膜を栄養。
- 内頸動脈:蝶形骨体部側面の頸動脈管を通過。
血管支配
- 中硬膜動脈(棘孔より進入)
- 眼動脈(視神経管を通過)
- 蝶口蓋動脈枝・上行咽頭動脈枝などが蝶形骨洞を栄養
臨床的意義
- 下垂体腫瘍:トルコ鞍直上の下垂体が腫大すると蝶形骨体が圧迫・拡大する。
- 頭蓋底骨折:蝶形骨裂を含む骨折で視神経損傷・眼球運動麻痺が起こりうる。
- 副鼻腔炎(蝶形骨洞炎):深部にあり発見が難しいが、視神経炎や頭痛を伴う。
- 硬膜外血腫:中硬膜動脈が棘孔付近で損傷し、蝶形骨部で出血する。
- 頭蓋内感染:副鼻腔経由で中頭蓋窩へ波及する可能性。
触診・位置関係
- 外表からは直接触れないが、眼窩後方・側頭下窩・翼口蓋窩などで間接的に位置を把握できる。
- 蝶形骨大翼は側頭骨鱗部と連続して頭蓋底の外側壁を構成。
- 鼻腔後上壁の深部に蝶形骨洞が位置する。
東洋医学的関連
- 蝶形骨は「泥丸宮(でいがんきゅう)」と呼ばれる部位に相当し、脳内の気血循環の中心とされる。
- トルコ鞍部は下垂体に対応し、内分泌系・自律神経の中枢として、東洋医学的にも「神の座」と表現される。
- 蝶形骨の歪みは「督脈」の気の流れを乱し、頭痛・めまい・精神不安定などを引き起こすと考えられる。
- 関連経絡:督脈・陽蹻脈・足の少陽胆経など。
- 関連経穴:百会(GV20)、印堂(EX-HN3)、頭臨泣(GB15)など、頭部正中・前頭部の経穴に反映。
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