蝶形骨(sphenoid bone)の特徴と筋付着部

Sphenoid bone - animation 02

骨の名称

  • 和名:蝶形骨(ちょうけいこつ)
  • 英名:Sphenoid bone
  • ラテン名:Os sphenoidale

分類

  • 不規則骨に分類。
  • 頭蓋底中央部に位置し、脳頭蓋と顔面頭蓋の両方に関与する。

概要

  • 頭蓋底の中央に位置し、前頭骨・側頭骨・頭頂骨・後頭骨・篩骨・上顎骨など、多数の骨と連結する。
  • 形が蝶に似ていることから名づけられた。
  • 中枢神経(視神経・下垂体・内頸動脈など)や多くの血管・神経が通過する孔を持つ。
  • 蝶形骨洞(sphenoidal sinus)は副鼻腔の一つで、上気道と連絡している。

形態・構造

  • 中央に体部(body)があり、左右に大翼(greater wing)小翼(lesser wing)が広がる。
  • 下方には翼突突起(pterygoid process)が垂れ下がる。
  • 上面中央にはトルコ鞍(sella turcica)があり、その中央に下垂体窩(hypophyseal fossa)を形成する。
  • 前面には蝶形骨洞の開口部があり、鼻腔と交通する。

主なランドマーク

  • トルコ鞍(sella turcica):下垂体を収める凹所。
  • 前床突起・後床突起(anterior/posterior clinoid process):テント切痕を支えるテント索の付着部。
  • 視神経管(optic canal):視神経および眼動脈が通過。
  • 上眼窩裂(superior orbital fissure):動眼・滑車・外転・三叉神経第1枝などが通過。
  • 正円孔(foramen rotundum):三叉神経第2枝(上顎神経)。
  • 卵円孔(foramen ovale):三叉神経第3枝(下顎神経)。
  • 棘孔(foramen spinosum):中硬膜動脈が通る。
  • 翼状突起(pterygoid process):外側・内側翼突筋などの付着部。

関節する骨

  • 前頭骨(前上方)
  • 頭頂骨(上方)
  • 側頭骨(外側)
  • 後頭骨(後方)
  • 篩骨(前方)
  • 頬骨・上顎骨・口蓋骨・鋤骨(前下方)

筋付着

  • 起始する筋:
    • 外側翼突筋(翼突突起外側板)
    • 内側翼突筋(翼突突起内側板)
    • 上頭直筋・下頭斜筋(蝶形骨体部)
    • 眼窩上斜筋(蝶形骨小翼上縁)
    • 咬筋・側頭筋・顎二腹筋後腹の支持構造に関与
  • 停止する筋:
    • なし(主に起始骨として機能)

神経・血管との関係

  • 視神経(CN II):視神経管を通過。
  • 動眼神経(CN III)、滑車神経(CN IV)、外転神経(CN VI)、三叉神経第1枝(CN V1):上眼窩裂を通過。
  • 三叉神経第2枝(CN V2):正円孔を通過。
  • 三叉神経第3枝(CN V3):卵円孔を通過。
  • 中硬膜動脈:棘孔を通過し硬膜を栄養。
  • 内頸動脈:蝶形骨体部側面の頸動脈管を通過。

血管支配

  • 中硬膜動脈(棘孔より進入)
  • 眼動脈(視神経管を通過)
  • 蝶口蓋動脈枝・上行咽頭動脈枝などが蝶形骨洞を栄養

臨床的意義

  • 下垂体腫瘍:トルコ鞍直上の下垂体が腫大すると蝶形骨体が圧迫・拡大する。
  • 頭蓋底骨折:蝶形骨裂を含む骨折で視神経損傷・眼球運動麻痺が起こりうる。
  • 副鼻腔炎(蝶形骨洞炎):深部にあり発見が難しいが、視神経炎や頭痛を伴う。
  • 硬膜外血腫:中硬膜動脈が棘孔付近で損傷し、蝶形骨部で出血する。
  • 頭蓋内感染:副鼻腔経由で中頭蓋窩へ波及する可能性。

触診・位置関係

  • 外表からは直接触れないが、眼窩後方・側頭下窩・翼口蓋窩などで間接的に位置を把握できる。
  • 蝶形骨大翼は側頭骨鱗部と連続して頭蓋底の外側壁を構成。
  • 鼻腔後上壁の深部に蝶形骨洞が位置する。

東洋医学的関連

  • 蝶形骨は「泥丸宮(でいがんきゅう)」と呼ばれる部位に相当し、脳内の気血循環の中心とされる。
  • トルコ鞍部は下垂体に対応し、内分泌系・自律神経の中枢として、東洋医学的にも「神の座」と表現される。
  • 蝶形骨の歪みは「督脈」の気の流れを乱し、頭痛・めまい・精神不安定などを引き起こすと考えられる。
  • 関連経絡:督脈・陽蹻脈・足の少陽胆経など。
  • 関連経穴:百会(GV20)印堂(EX-HN3)頭臨泣(GB15)など、頭部正中・前頭部の経穴に反映。

0 件のコメント:

コメントを投稿