概要
肩関節(肩甲上腕関節)は、上腕骨頭と肩甲骨関節窩によって構成される球関節で、人体で最も可動域が広い関節です。
大きな可動性を得る代わりに、安定性は筋(特にローテーターカフ)に大きく依存しています。
分類
- 種類:滑膜性関節(球関節)
- 可動範囲:全方向性(屈曲・伸展・外転・内転・内旋・外旋・水平屈曲・水平伸展)
- 安定化構造:関節唇、関節包、靱帯、ローテーターカフ
構成する骨
運動
- 屈曲・伸展
- 外転・内転
- 内旋・外旋
- 水平屈曲・水平伸展
- 円運動
付着する主な筋(ローテーターカフ)
その他の関連筋
安定化に関与する靱帯
- 上関節上腕靱帯(SGHL)
- 中関節上腕靱帯(MGHL)
- 下関節上腕靱帯(IGHL:最重要)
- 烏口上腕靱帯
- 関節唇(肩峰下スペースの維持・安定化)
臨床的意義
- 腱板損傷(棘上筋腱など)
- 反復性肩関節脱臼(前方脱臼が最も多い)
- 肩インピンジメント症候群
- 肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)
- 肩甲上腕リズムの破綻による可動域制限
- 上腕二頭筋長頭腱炎
触診ポイント
肩峰前面から下方へ指をすべらせると、上腕骨頭との隙間が肩甲上腕関節裂隙として触れます。
外転 60°付近で関節裂隙が明瞭になり、圧痛や動きの異常を確認できます。
肩の内旋・外旋を行ってもらうことで、上腕骨頭の回旋を指で追跡できます。
東洋医学的関連
- 肩関節周囲は大腸経・小腸経・三焦経の重要ルートが集まる。
- 五十肩・腱板損傷などの肩部疾患において、経絡治療が極めて効果的な領域。
- 「肩は気血の集まる処」とされ、気滞・瘀血の評価点として重要。
関連する主な経穴
- 肩髃(けんぐう|LI15):肩関節痛の特効穴。外転制限に最重要。
- 肩髎(けんりょう|TE14):肩峰後外方。
→ インピンジメント、後方関節包の硬さに。 - 秉風(へいふう|SI12):肩甲棘上窩の落ち込み。
→ 肩甲上部の気滞・こわばりを改善。 - 巨骨(ここつ|LI16):肩鎖関節内側。
→ 外転痛、挙上困難に。 - 臂臑(ひじゅ|LI14):上腕外側。
→ 三角筋・上腕の経絡疎通を促し、挙上改善。 - 肩貞(けんてい|SI9):腋窩後部。
→ 後方関節包、ローテーターカフの機能改善に。 - 臑兪(じゅゆ|SI10):肩甲棘上端。
→ 可動域改善、肩周囲の血行促進。
鍼灸の臨床効果(期待されるもの)
- 五十肩・凍結肩の疼痛軽減と可動域改善
- 腱板損傷の機能改善(棘上筋部の治療が特に有効)
- 肩インピンジメント症状の改善
- 肩甲上腕リズムの正常化
- 肩前面(上腕二頭筋長頭腱)痛の緩和
- 肩から腕へのしびれ・重だるさの改善(経絡疏通)
まとめ
肩関節は身体で最も可動性の大きい関節で、筋・靱帯・関節包の総合作用で安定性が保たれています。
東洋医学的にも肩の経穴が集中するため、鍼灸治療の効果が特に高い領域です。
機能解剖と経絡を併せて理解することで、臨床での治療精度が大きく向上します。

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