下頭斜筋の起始・停止・作用まとめ

Obliquus capitis inferior muscle animation small

1.名称(和名・英名・ラテン語)

  • 和名:下頭斜筋(かとうしゃきん)
  • 英名:Obliquus capitis inferior muscle
  • ラテン語:Musculus obliquus capitis inferior
下頭斜筋は、後頭下筋群の中で**頭部回旋**に最も関与する筋。 軸椎(第2頸椎)の棘突起から環椎(第1頸椎)の横突起に走行する、短く水平に近い筋です。

2.起始・停止

  • 起始: 軸椎(第2頸椎)の棘突起
  • 停止: 環椎(第1頸椎)の横突起
軸椎棘突起から環椎横突起へ水平に走行し、同側の頭部回旋動作を主に制御する。 後頭下三角の下方で大後頭直筋・上頭斜筋と関わる。

3.支配神経

  • 後頭下神経(C1)
後頭下神経は第1頸神経後枝で、後頭下筋群全てに分布する。 下頭斜筋は特に頭部の微細な回旋運動に寄与する。

4.作用

  • 片側収縮:頭部を同側に回旋(右筋は右回旋、左筋は左回旋)
  • 両側収縮:軽度の後頭部伸展補助
下頭斜筋は、後頭下筋群の中で**頭部回旋に最も貢献する筋**であり、 姿勢保持や微細な動作制御に重要。

5.位置関係・構造

  • 内側:大後頭直筋
  • 上方:上頭斜筋
  • 外側:環椎—後頭関節の関節包
下頭斜筋は後頭下三角の底部に位置し、椎骨動脈や後頭下神経と隣接。 過緊張は回旋制限や後頭部痛の原因となることがある。

6.関連する経穴

下頭斜筋は後頭下筋群の深層にあるため、鍼灸では「風池」「天柱」「風府」などを用いて緊張緩和や頭部回旋可動域改善に活用される。

7.臨床的意義・関連症状

  • 頭部回旋制限(特に片側回旋)
  • 後頭部痛・頸性頭痛
  • めまい・ふらつき(椎骨動脈への影響)
  • 首のこわばり・姿勢不良
下頭斜筋の過緊張は、回旋制限や後頭下神経圧迫による頭痛・めまいを引き起こすことがあります。 鍼灸・徒手療法では「風池」「天柱」「風府」の刺激で緊張を緩和し、可動域を改善します。

上頭斜筋の起始・停止・作用まとめ

Obliquus capitis superior muscle - animation02

1.名称(和名・英名・ラテン語)

  • 和名:上頭斜筋(じょうとうしゃきん)
  • 英名:Obliquus capitis superior muscle
  • ラテン語:Musculus obliquus capitis superior
上頭斜筋は、後頭部の深層に位置する後頭下筋群のひとつ。 環椎(第1頸椎)の横突起から起こり、後頭骨へ向かって走行する。 頭部の伸展・同側側屈に関与します。

2.起始・停止

  • 起始: 環椎(第1頸椎)の横突起
  • 停止: 後頭骨の下項線外側部(大後頭直筋の上方)
環椎横突起から起こり、やや上内方に走行して後頭骨の外側部に付着する。 大後頭直筋の外上方に位置し、両者で後頭部の伸展に寄与します。

3.支配神経

  • 後頭下神経(C1)
後頭下神経(第1頸神経後枝)は後頭下筋群に分布し、 精密な頸部運動を制御しています。

4.作用

  • 両側収縮:頭部の伸展(後屈)
  • 片側収縮:頭部の同側側屈
環椎—後頭関節に作用し、頭を後ろに反らす・同側に傾ける動きを補助する。 姿勢保持筋としても重要で、長時間のうつむき姿勢で過緊張を起こしやすい。

5.位置関係・構造

  • 内側:大後頭直筋
  • 下方:下頭斜筋
  • 上方:後頭半棘筋に覆われる
  • 外側:胸鎖乳突筋との深層に位置
上頭斜筋は「大後頭直筋」「下頭斜筋」とともに後頭下三角(suboccipital triangle)を形成。 その内部には椎骨動脈後頭下神経が走行します。 過緊張は椎骨動脈の血流を阻害し、めまいや頭痛の原因となることがあります。

6.関連する経穴

上頭斜筋は「風池」穴の直下に位置し、 鍼灸臨床では後頭部痛・めまい・自律神経症状に対して重要な治療部位となります。

7.臨床的意義・関連症状

  • 後頭部痛・頸性頭痛
  • めまい・ふらつき(椎骨動脈圧迫)
  • 眼精疲労・首の重だるさ
  • ストレートネックによる後頭部緊張
上頭斜筋の過緊張は後頭下神経や椎骨動脈に影響し、 後頭部痛・めまい・視覚疲労を引き起こすことがあります。 「風池」「天柱」などの経穴刺激で緊張を緩和することが多いです。

小後頭直筋の起始・停止・作用まとめ

Rectus capitis posterior minor muscle animation small

1.名称(和名・英名・ラテン語)

  • 和名:小後頭直筋(しょうこうとうちょくきん)
  • 英名:Rectus capitis posterior minor muscle
  • ラテン語:Musculus rectus capitis posterior minor
小後頭直筋は、後頭部深層に位置する後頭下筋群のひとつで、 環椎(第1頸椎)から後頭骨へ走行する短い筋。 主に頭部の伸展(後屈)や姿勢保持に寄与します。

2.起始・停止

  • 起始: 環椎(第1頸椎)の後結節
  • 停止: 後頭骨の下項線内側部(大後頭孔のすぐ外側)
環椎後結節から起こり、斜め上方に向かって走行して後頭骨に付着。 大後頭直筋のすぐ内側に位置し、両者で後頭部の安定化を担います。

3.支配神経

  • 後頭下神経(C1)
後頭下神経(第1頸神経後枝)は後頭下筋群すべてに分布し、 頭部の微妙な調整運動を司ります。

4.作用

  • 頭部の伸展(後屈)
  • 姿勢保持(特に正中位での安定)
小後頭直筋は頭部を後方に引くように働き、 環椎—後頭関節の安定に重要な役割を果たします。 長時間のデスクワークやスマホ操作で過緊張を起こしやすい筋です。

5.位置関係・構造

  • 外側:大後頭直筋
  • 下方:下頭斜筋
  • 上方:後頭半棘筋に覆われる
小後頭直筋は正中線上に位置し、頭蓋と環椎を結ぶ重要な安定筋。 筋の直下には後頭下膜(膜様構造)があり、 その下を硬膜が走行するため、過緊張は頭痛やめまいの原因となることもあります。

6.関連する経穴

小後頭直筋は「天柱」「風府」などの経穴部位に相当し、 後頭部の痛み・眼精疲労・自律神経症状への治療点として重要です。

7.臨床的意義・関連症状

  • 後頭部の鈍痛・頭重感
  • 頸性頭痛(特に正中寄り)
  • めまい・平衡感覚の異常
  • ストレートネック関連症状
小後頭直筋の過緊張は後頭下膜を介して硬膜を牽引し、 頭痛・めまい・吐き気などの頸性神経症状を引き起こすことがあります。 鍼灸では「風府」や「天柱」の刺激で緊張緩和を図ることが多いです。

大後頭直筋の起始・停止・作用まとめ

Rectus capitis posterior major muscle animation small

1.名称(和名・英名・ラテン語)

  • 和名:大後頭直筋(だいこうとうちょくきん)
  • 英名:Rectus capitis posterior major muscle
  • ラテン語:Musculus rectus capitis posterior major
大後頭直筋は、環椎の下の軸椎(第2頸椎)から後頭骨に向かう短い強力な筋。 後頭部の回旋・伸展に関与し、深部では「小後頭直筋」「上頭斜筋」「下頭斜筋」とともに後頭下三角を構成する。

2.起始・停止

  • 起始: 軸椎(第2頸椎)の棘突起
  • 停止: 後頭骨の下項線の外側部
第2頸椎の棘突起から起こり、斜め上方・外方へ走行し、後頭骨の下項線外側部に付着する。 同側の「小後頭直筋」はその内側に位置し、両者で後頭部の安定と微細運動を支える。

3.支配神経

  • 後頭下神経(C1)
後頭下神経は第1頸神経後枝であり、後頭下筋群(大・小後頭直筋、上・下頭斜筋)を支配する。 これにより、後頭部の細やかな運動制御と姿勢保持が可能となる。

4.作用

  • 両側収縮:頭部の伸展(後屈)
  • 片側収縮:頭部の同側回旋(右筋は右回旋、左筋は左回旋)
環椎—後頭関節および軸椎—環椎関節をまたいで作用し、 後頭部を持ち上げるように伸展させ、同側へ回旋させる。 姿勢保持のための持続的収縮も行い、頸性頭痛の原因筋にもなりうる。

5.位置関係・構造

  • 内側:小後頭直筋
  • 外側:上頭斜筋
  • 下方:下頭斜筋
  • 上方:後頭半棘筋・頭最長筋に覆われる
大後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋で構成される空間を後頭下三角(suboccipital triangle)という。 その内部には「椎骨動脈」および「後頭下神経」が通り、臨床上きわめて重要な部位である。

6.関連する経穴

経絡的には膀胱経・胆経・督脈と関連。 特に「天柱」「風池」「風府」は、後頭下筋群の緊張緩和や、 頸性頭痛・めまい・自律神経症状の治療点として頻用される。

7.臨床的意義・関連症状

  • 後頭部痛(後頭神経痛、頸性頭痛)
  • めまい・ふらつき(椎骨動脈圧迫)
  • 視覚疲労・眼精疲労
  • 頸部伸展制限
大後頭直筋の過緊張は、後頭下神経や椎骨動脈を圧迫し、 後頭部痛・めまい・視覚症状を引き起こすことがある。 鍼灸や徒手療法では、「天柱」「風池」などへの刺激が有効とされる。

外側頭直筋の起始・停止・作用まとめ

Rectus capitis lateralis muscle - animation01

1.名称(和名・英名・ラテン語)

  • 和名:外側頭直筋(がいそくとうちょくきん)
  • 英名:Rectus capitis lateralis muscle
  • ラテン語:Musculus rectus capitis lateralis
外側頭直筋は、環椎の横突起から後頭骨の頸静脈突起に向かう小筋。 前頭直筋とともに、環椎—後頭関節(AO関節)の微細運動を制御する重要な深頸筋群の一つ。

2.起始・停止

  • 起始: 環椎(第1頸椎)の横突起上面
  • 停止: 後頭骨の頸静脈突起(jugular process)
環椎の外側突起から後上方へ短く走行し、後頭骨の外側下部に付着する。 この位置関係により、頭部の同側側屈関節安定を担う。

3.支配神経

  • 頸神経前枝(C1)
最上位頸神経(C1)より支配を受ける。 この神経は舌下神経(XII)の経路に沿って走行することが多い。

4.作用

  • 頭部の同側側屈(片側収縮時)
  • 環椎—後頭関節(AO関節)の安定化
外側頭直筋は単独では強い運動を生じないが、 頭の傾き(側屈)を制御し、AO関節の関節包や靭帯の張力補助を行う。 両側収縮ではわずかに頭部を安定化させる働きもある。

5.位置関係・特徴

  • 内側:前頭直筋
  • 外側:胸鎖乳突筋の深部
  • 後方:上頭斜筋
頭部外側の深層にあり、前頭直筋の外側に位置する。 咽頭の外側縁に接しており、内頸静脈や舌下神経、迷走神経などが近接して走行する。 そのため、頸部深層筋の過緊張はこれらの神経血管構造にも影響を及ぼしうる。

6.関連する経穴

経絡的には胃経(ST)・胆経(GB)・三焦経(TE)と関連が深い。 「人迎」「翳風」「完骨」などは、頸部の深層緊張や咽頭圧迫感の改善に用いられる。

7.臨床での関連(症状・特徴)

  • 頸部側方のこわばり・可動制限
  • 頭部の傾き・頸性頭痛(AO関節性)
  • 頸動脈洞・咽頭部の違和感
  • 舌下神経・迷走神経由来の反射的影響
外側頭直筋の過緊張は、頸部の側屈制限や 頸性めまい・耳閉感・咽頭圧迫感などの症状を起こすことがある。 鍼灸では「人迎」「完骨」「翳風」などを用い、深層筋のバランスを整える。

前頭直筋の起始・停止・作用まとめ

Rectus capitis anterior muscle - animation04

1.名称(和名・英名・ラテン語)

  • 和名:前頭直筋(ぜんとうちょくきん)
  • 英名:Rectus capitis anterior muscle
  • ラテン語:Musculus rectus capitis anterior
前頭直筋は、後頭骨と環椎(第1頸椎)を結ぶ小さな筋で、頭部の微細な前屈運動に関与する。 頭長筋の上方・内側に位置し、深頸筋群の中でも最深層に属する。

2.起始・停止

  • 起始: 環椎(第1頸椎)の前弓の内側面および横突起の根部
  • 停止: 後頭骨の底部(斜台部の前方部)
環椎の内側前方から起こり、すぐ上方に走行して後頭骨底部に付着する。 その位置は環椎前面と咽頭後壁の間にあり、頭長筋よりさらに深層。

3.支配神経

  • 頸神経前枝(C1、C2)
上位頸神経(特にC1、C2)からの枝によって支配される。 これらは舌下神経(XII)の経路に沿って走行することが多い。

4.作用

  • 頭部(後頭骨)の前屈(うなずき動作)
  • 頭部の安定化(環椎—後頭関節の保持)
  • 軽度の同側側屈(片側収縮時)
前頭直筋は環椎—後頭関節(AO関節)の微細な屈曲に働く。 両側収縮でうなずき運動を起こし、片側収縮では同側への軽い傾き(側屈)を助ける。

5.位置関係・特徴

  • 後方:環椎前弓
  • 前方:咽頭、椎前筋膜
  • 外側:頭長筋
前頭直筋は椎前筋群の中でも最も上方・内側にあり、 頭長筋のすぐ内側で、環椎前面に密着する。 咽頭や上位交感神経節(上頸神経節)にも近く、自律神経系への影響も考慮される。

6.関連する経穴

経絡的には任脈(CV)・胃経(ST)・胆経(GB)に関係する。 「廉泉」「人迎」は前頸部深層、「完骨」は後頭下部のバランスを整える点として応用される。

7.臨床での関連(症状・特徴)

  • 頸性頭痛(環椎後頭関節性)
  • うなずき動作の制限・違和感
  • 上位頸部のこわばり・咽喉の圧迫感
  • 頭部前方位姿勢(FHP)に伴う筋弱化
前頭直筋は小さいながらも頭部姿勢制御に重要で、 過緊張では喉の詰まり感・上位頸痛、 弱化では頭部前方突出姿勢(FHP)の原因となる。 鍼灸では「廉泉」「人迎」などで深層へのアプローチが有効。

頭長筋の起始・停止・作用まとめ

Gray — musculus longus capitis

1.名称(和名・英名・ラテン語)

  • 和名:頭長筋(とうちょうきん)
  • 英名:Longus capitis muscle
  • ラテン語:Musculus longus capitis
頭長筋は、頸長筋の上方に位置し、頸椎前面から後頭骨底部へ走行する深頸筋。 頸椎の屈曲や、頭部を前方に引く作用を持ち、頸部安定化に寄与する。 姿勢保持・頸椎制御のための「深頸屈筋群(deep cervical flexors)」の一部である。

2.起始・停止

  • 起始: 第3〜第6頸椎の横突起前結節(C3〜C6)
  • 停止: 後頭骨の底部(蝶形骨の斜台部)
頭長筋は頸椎から頭蓋底に向かって斜め上方・内側に走行し、 後頭骨の斜台(basilar part of occipital bone)に付着する。 頸長筋よりも上・前方に位置し、より頭部寄りの屈筋である。

3.支配神経

  • 頸神経叢の前枝(C1〜C3)
頸長筋よりも上位の頸神経(C1〜C3)から支配を受ける。 上位頸神経の障害や筋緊張により、頭痛・後頭部違和感を生じることがある。

4.作用

  • 頭部の前屈(顎を引く動作)
  • 頸椎上部の屈曲
  • 頸部・頭部の安定化
  • 片側収縮で軽度の側屈
両側収縮では頭部を前方に倒す「うなずき運動(yes運動)」を行い、 片側収縮では同側への軽い側屈を起こす。 頸長筋と協働して頸椎を安定化させる。

5.位置関係・特徴

  • 前方:咽頭、頸動脈鞘(総頸動脈・内頸静脈・迷走神経)
  • 後方:頸椎の横突起
  • 下方:頸長筋
頭長筋は椎前筋群(prevertebral muscles)の一つで、 頸長筋の上方に位置し、咽頭後壁と接して走行する。 これら深頸屈筋群は、表層筋(胸鎖乳突筋など)の裏で頸椎を支える安定化筋である。

6.関連する経穴

頭長筋は「任脈(CV)」・「胃経(ST)」・「大腸経(LI)」の経穴領域に関連。 「人迎」「扶突」「天突」は咽頭前面から頸深層を貫く経路に位置し、 自律神経調整や嚥下機能改善にも応用される。

7.臨床での関連(症状・特徴)

  • 頸部前面のこわばり、喉の圧迫感
  • 顎を引く姿勢の弱化(深頸屈筋の低下)
  • 頭部前方位姿勢(FHP)
  • 緊張性頭痛、めまい、頸性頭痛
  • 咽頭違和感や嚥下障害
頭長筋は頸長筋とともに「インナーネックマッスル」として姿勢維持に不可欠。 弱化すると顎を引けず、頭部が前方へ突出する。 過緊張では嚥下障害や咽喉部圧迫感を生じやすい。