1.名称(和名・英名・ラテン語)
- 和名:前斜角筋(ぜんしゃかくきん)
- 英名:Scalenus anterior muscle
- ラテン語:Musculus scalenus anterior
前斜角筋は、頸部の前外側に位置し、頸椎横突起から第1肋骨に向かって走行する。
深呼吸時の吸気補助筋として働くとともに、頸椎の前屈・側屈運動にも関与する。
鎖骨下動脈や腕神経叢との位置関係が臨床的に極めて重要である。
2.起始・停止
- 起始: 第3~第6頸椎の横突起前結節(anterior tubercles of transverse processes of C3–C6)
- 停止: 第1肋骨の前斜角筋結節(scalene tubercle of first rib)およびその周囲
筋線維は下外方へ向かって走行し、第1肋骨上面の前斜角筋結節に停止する。
鎖骨下動脈は前斜角筋の後方を通り、鎖骨下静脈は前方を通過する。
3.支配神経
頸神経叢からの筋枝によって支配される。中斜角筋や後斜角筋も同様に頸神経叢(C3~C8)から支配を受ける。
4.作用
- 第1肋骨を挙上(吸気補助)
- 頸部を同側に側屈
- 両側同時収縮で頸部を前屈
深呼吸時には第1肋骨を引き上げて胸郭を拡張するため、吸気補助筋として機能する。
また、一側収縮で頭頸部を同側に倒し、両側収縮で頸椎の前屈を助ける。
5.位置関係・形態
- 中斜角筋と外側斜角筋の前方に位置。
- 前方には鎖骨下静脈、後方には鎖骨下動脈と腕神経叢が走行。
- 上外側では胸鎖乳突筋の深層に隠れる。
前斜角筋と中斜角筋の間の隙間を斜角筋間隙(scalene gap)と呼び、
ここを腕神経叢と鎖骨下動脈が通過する。
この部位での圧迫は斜角筋症候群(scalenus syndrome)を引き起こすことがある。
6.関連する経穴
前斜角筋は主に大腸経と胃経の経路に近接しており、
「天鼎」「扶突」「気舎」などの経穴が分布する。
咽喉部の症状、呼吸困難、肩・腕への放散痛(斜角筋症候群)に対して治療的意義がある。
7.臨床での関連(症状・特徴)
- 首から肩・腕にかけてのしびれ(腕神経叢圧迫)
- 肩こり、頸部のこわばり
- 胸郭出口症候群(TOS)の原因筋
- 呼吸補助筋としての過緊張 → 浅い呼吸・首前方姿勢
- 咽喉部の違和感や声のこもり
前斜角筋の過緊張は、鎖骨下動脈や腕神経叢を圧迫し、
上肢のしびれ・血流障害・冷感を引き起こす(いわゆる斜角筋症候群)。
呼吸が浅い人や、頭部前方位姿勢をとる人に多くみられる。
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