● 概要
尺骨動脈は、上腕動脈が前腕で橈骨動脈と分岐したうちの内側を走行する主要動脈であり、前腕〜手の血流供給の中心的役割を担う。
特に手掌アーチ(浅掌動脈弓)に主要な血流を送る動脈として重要で、臨床的にも触診や末梢循環評価の際によく登場する。
● 走行
・肘窩部で上腕動脈から分岐し、前腕の内側(尺側)を下降する。
・円回内筋の深層を通過し、その後は尺側手根屈筋・浅指屈筋の深部を走行する。
・手関節部では尺側手根屈筋の橈側に位置し、手掌へ進入する。
・手掌では浅掌動脈弓の主要構成要素となり、手指への血流を供給する。
● 主な分枝
・反回尺骨動脈(前・後)
・総骨間動脈(→前骨間動脈・後骨間動脈)
・手根枝(掌側・背側)
・浅掌動脈弓
・深掌枝(深掌動脈弓へ)
● 触診ポイント
・手関節掌側、尺側手根屈筋腱の外側(橈側)で脈を触知できる。
・橈骨動脈より触知しにくいことが多いが、循環評価で重要なポイント。
● 臨床的意義
・Allenテスト:手掌の血行評価で尺骨動脈の開存性を確認する。
・手掌血流の主供給源であるため、末梢動脈疾患や外傷時の評価で重要。
・カテーテルアプローチは主に橈骨動脈だが、尺骨動脈も代替ルートとなる。
・スポーツや作業で尺側の圧迫が続くと流入障害の原因となり得る。
● 東洋医学的関連
・前腕尺側は「心」「小腸」「三焦」経絡の走行領域と関連性がある。
・手関節尺側部は、少陰心経の経穴や少陽三焦経の経穴が近接しており、循環・気血の通路として理解されることが多い。
・脈診においては橈骨動脈を触れるが、解剖学的理解として尺側血流も補助的に考慮される。

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