舟状骨(Scaphoid)の特徴と筋付着部

Scaphoid bone (left hand) - animation01

骨の名称

  • 和名:舟状骨(しゅうじょうこつ)
  • 英名:Scaphoid bone
  • ラテン名:Os scaphoideum

分類

  • 短骨(手根骨の近位列)
  • 手根骨のうち、親指側(橈側)に位置する。
  • 近位列の最外側で、橈骨・月状骨・大菱形骨・小菱形骨・頭状骨と関節を形成する。
  • 「手根骨の要」ともいわれ、手関節の安定性に重要な役割を果たす。

位置関係

  • 手根骨の近位列の橈側端に位置し、橈骨遠位端の橈骨窩に接する。
  • 橈骨との間に橈骨手根関節を構成。
  • 尺側には月状骨、遠位には小菱形骨・大菱形骨・頭状骨が位置する。
  • 手根管の橈側壁を形成し、母指球側の構造的支持骨となる。

特徴・ランドマーク

  • 舟状骨結節(tubercle of scaphoid)
    • 手掌側に突出する小結節。
    • 母指球筋群および屈筋支帯(手根管の橈側壁)に関与。
    • 触診可能で、手首掌側・母指根部に位置。
  • 近位端(proximal pole)
    • 橈骨遠位端の橈骨窩に関節面を形成。
    • 血流が少なく、骨折時に壊死を起こしやすい部位。
  • 遠位端(distal pole)
    • 小菱形骨・大菱形骨・頭状骨と接し、手根中央関節を構成。
  • 背側溝(dorsal groove)
    • 舟状骨背側に浅い溝があり、手根背側靭帯が通過。

構成関節

  • 橈骨手根関節(radiocarpal joint)
    • 舟状骨近位面と橈骨遠位端の橈骨窩による関節。
    • 手関節の屈伸・橈尺屈運動に関与。
  • 手根中央関節(midcarpal joint)
    • 舟状骨の遠位面が小菱形骨・大菱形骨・頭状骨と接する。
    • 手根の安定と動きの連動を担う。
  • 舟状月状関節(scapholunate joint)
    • 舟状骨と月状骨の間の小関節。
    • 舟状月状靭帯で結ばれ、損傷すると「舟状月状離開」を生じる。

筋付着

  • 舟状骨自体に筋は直接付着しないが、以下の構造と関係:

靭帯付着

  • 橈側手根側副靭帯(radial collateral ligament)
    • 橈骨茎状突起から舟状骨結節に付着。
    • 手関節の橈屈制限に関与。
  • 舟状月状靭帯(scapholunate ligament)
    • 舟状骨と月状骨を連結する重要な安定靭帯。
    • 損傷時に手根不安定症を生じる。
  • 橈側手根背側靭帯・掌側靭帯群:舟状骨背掌両面に広く付着。

血管支配

  • 橈骨動脈が主要な栄養血管。
  • 血流は遠位端から近位端へ逆行性に流れるため、近位極骨折で壊死リスクが高い
  • 骨内血流:橈骨動脈の背側枝および掌側枝が貫入。

神経支配(隣接構造を通じて)

  • 正中神経: 手根管を通過し、舟状骨結節の掌側を通る。
  • 橈骨神経浅枝: 背側で舟状骨背側面を走行。

臨床的意義

  • 舟状骨骨折:
    • 手をついて転倒した際に最も多い手根骨骨折。
    • 特に近位端骨折では壊死しやすく、癒合不全を起こしやすい。
    • 手関節橈側の「スナッフボックス圧痛(解剖学的嗅ぎタバコ入れ)」が特徴。
  • 舟状月状離開:
    • 舟状月状靭帯の損傷により、舟状骨と月状骨の位置がずれる。
    • X線で「Terry Thomas sign(歯すき様間隙)」が見られる。
  • 血行障害性壊死:
    • 近位極骨折後の合併症。MRIで早期診断される。
  • スナッフボックス触診:
    • 母指を伸展した際、長母指伸筋腱と短母指伸筋腱の間にできる陥凹部(スナッフボックス)で触れる。

触診ポイント

  • 手関節を伸展し、母指を伸ばした状態で、スナッフボックス底部に舟状骨を触知。
  • 舟状骨骨折ではこの部位に圧痛が強い。
  • 掌側では、母指球近位の骨性隆起(舟状骨結節)として確認できる。

東洋医学的関連

  • 関連経絡: 手の太陰肺経、手の陽明大腸経。
  • 関連経穴:
    • 列缺(LU7):橈骨茎状突起上方、舟状骨の近位で触れる経穴。
    • 陽谿(LI5):橈骨茎状突起と舟状骨の間の陥凹に位置。舟状骨上に重なる。
  • 古典的考え方: 橈側手根部は「気血の交わる処」とされ、呼吸・大腸機能と関わる部位。

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