第一頸椎(環椎, atlas)の特徴と筋付着部
骨の名称
- 和名:第一頸椎(だいいちけいつい)/環椎(かんつい)
- 英名:Atlas
- ラテン名:Atlas
分類
- 不規則骨(椎骨の特殊形)
- 脊柱の最上位に位置し、頭蓋骨(後頭骨)を支える。
- 椎体を欠き、前弓・後弓・左右の外側塊から構成される。
- 第二頸椎(軸椎)とともに、頭部の回旋・屈伸運動を担う。
特徴・ランドマーク
- 前弓(anterior arch):
- 前結節(anterior tubercle):前方中央の小隆起。長us colli筋上頭が付着。
- 歯突起窩(facet for dens):内面後方にあり、軸椎の歯突起と関節をなす。
- 後弓(posterior arch):
- 後結節(posterior tubercle):棘突起に相当。小後頭直筋が付着。
- 椎骨溝(groove for vertebral artery):上面後方にあり、椎骨動脈・C1神経後枝が通過。
- 外側塊(lateral mass):
- 上関節窩(superior articular facet):大きく凹み、後頭骨の後頭顆と関節(環椎後頭関節)を形成。
- 下関節窩(inferior articular facet):平滑で、軸椎の上関節突起と関節(環軸関節)を形成。
- 横突孔(transverse foramen):椎骨動脈・静脈が通過。
- 横突起(transverse process):発達しており、首の筋の付着点。
- 椎孔(vertebral foramen):
構成関節
- 環椎後頭関節(atlanto-occipital joint):
- 後頭骨の後頭顆と第一頸椎の上関節窩で構成。
- 運動:頭部の屈曲・伸展(うなずき運動)。
- 正中環軸関節(median atlanto-axial joint):
- 第二頸椎の歯突起と第一頸椎の歯突起窩で構成。
- 横靭帯によって歯突起を後方から保持。
- 外側環軸関節(lateral atlanto-axial joint):
- 第一頸椎下関節窩と第二頸椎上関節突起による。
- 運動:頭部の回旋(左右の「いいえ」運動)。
筋付着
靭帯との関係
- 横靭帯(transverse ligament of atlas):歯突起を後方から支え、正中環軸関節の安定を保持。
- 翼状靭帯(alar ligament):歯突起から後頭骨へ放射し、過度の回旋を制限。
- 環椎後頭膜・環椎軸膜:後頭骨や軸椎と連続し、脊柱管を補強。
神経支配(関連する筋を通じて)
- C1(第一頸神経, 下行枝・上行枝)が主要支配。
- 前頭直筋・外側頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋などを支配。
- C2後枝(大後頭神経)は後頭部皮膚感覚を支配し、環椎の後上方を通過。
血管との関係
- 椎骨動脈:横突孔を上行し、後弓上の溝(椎骨溝)を通過して延髄へ。
- 椎骨静脈叢が並走。
- この走行は頸部回旋時の血流動態に関与。
臨床的意義
- 環軸脱臼:外傷や靭帯損傷で歯突起と環椎の整列が乱れ、脊髄圧迫を生じる。
- 環椎後頭不安定症:先天的・外傷的に後頭骨との接合が不安定化。
- 椎骨動脈圧迫症候群:過度な頸回旋で椎骨動脈が圧迫され、めまい・視覚障害を起こす。
- 第一頸椎骨折(Jefferson骨折):外力で環状構造が破綻する骨折。軸方向荷重に注意。
触診ポイント
- 環椎の棘突起は存在しないが、後頭骨直下の柔らかい陥凹部(環椎後弓上)で位置を推定可能。
- 乳様突起と後頭隆起の間のライン上、指圧で椎骨動脈溝部を感じることができる。
東洋医学的関連
- 関連経絡:督脈、足太陽膀胱経。
- 関連経穴:
- 風府(GV16)[督脈]:後頭隆起下の陥凹部。環椎後弓の高さ。頭痛・めまい・精神安定に有効。
- 風池(GB20)[足少陽胆経]:乳様突起下・環椎後弓外側。血流調整・自律神経調整に用いる。
- 古典的考え方:第一頸椎は「百脈の宗」とも呼ばれ、脳・神経・気の流れの要所とされる。
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