母趾球筋の起始・停止・作用まとめ

１．名称（和名・英名・ラテン語）

• 和名：母趾球筋（ぼしきゅうきん）
• 英名：Muscles of the great toe eminence / Muscles of the hallux
• ラテン語：Musculi hallucis plantares

「母趾球筋」とは、足の内側にある母趾に作用する3つの筋群（短母趾屈筋、母趾外転筋、母趾内転筋）の総称。 手の拇指球筋群と同様に、足趾の精密な運動と足底アーチ保持を支える重要なグループである。

２．構成筋

• ① 短母趾屈筋（flexor hallucis brevis）
  - 起始：立方骨内側部および外側楔状骨、足底腱膜
   - 停止：母趾基節骨底の内側・外側両側の種子骨
   - 作用：母趾の中足趾節関節の屈曲
   - 支配神経：内側足底神経（L5〜S1）
• ② 母趾外転筋（abductor hallucis）
  - 起始：踵骨内側突起、足底腱膜内側縁
   - 停止：母趾基節骨底内側および内側種子骨
   - 作用：母趾の外転および軽度の屈曲
   - 支配神経：内側足底神経（L5〜S1）
• ③ 母趾内転筋（adductor hallucis）
  - 起始：〈斜頭〉第2〜第4中足骨底、〈横頭〉第3〜第5中足趾節関節の靭帯
   - 停止：母趾基節骨底外側および外側種子骨
   - 作用：母趾の内転、横アーチの維持
   - 支配神経：外側足底神経（S1〜S2）

これら3筋は、足底内側の「母趾球」を形成し、歩行時に母趾で地面を押す動作（蹴り出し）を補助する。 特に短母趾屈筋と母趾外転筋は内側縦アーチ保持筋としても働く。

３．支配神経

• 内側足底神経（L5〜S1）…母趾外転筋・短母趾屈筋の内側頭
• 外側足底神経（S1〜S2）…短母趾屈筋の外側頭・母趾内転筋

内側足底神経は手の正中神経に、外側足底神経は手の尺骨神経に相当する支配領域をもつ。

４．作用

• 母趾の屈曲（短母趾屈筋）
• 母趾の外転（母趾外転筋）
• 母趾の内転（母趾内転筋）
• 内側縦アーチ・横アーチの保持
• 歩行時の蹴り出し動作の安定化

５．関連する経穴

• 湧泉（KI1）：足底の最も陥凹した部
• 公孫（SP4）：第1中足骨底の前下方
• 太衝（LR3）：第1・第2中足骨間の陥凹部

母趾球筋群は足の太陰脾経・足の厥陰肝経・足の少陰腎経の交会領域にあたり、 アーチ支持・気血循環・歩行バランスと深く関係する。 鍼灸臨床では、足底の疲労、足趾変形、外反母趾、アーチ低下などに応用される。

６．臨床での関連（症状・特徴）

• 外反母趾（Hallux valgus）
• 足底筋膜炎・内側アーチ低下
• 母趾の屈曲・外転・内転制限
• 足底内側のこり・しびれ（内側足底神経絞扼症候群）

母趾球筋群は足の安定性の要。これらの筋が弱化すると、母趾が外側へ偏位し、 外反母趾やアーチ崩壊の原因となる。 鍼灸では「太衝」「公孫」「湧泉」「太白」などが治療点として有効。