1.筋肉の名称(和名・英名・ラテン語)
- 和名:虫様筋(ちゅうようきん)
- 英名:Lumbrical muscles (of the hand)
- ラテン語:Musculi lumbricales manus
虫様筋は、手の掌側にある4つの細長い筋で、
深指屈筋腱の間から起こり、指を伸ばす・曲げる動作を精密に調整する。
名称の「虫様」は、細く長い形が“虫(ミミズ)”のように見えることに由来する。
2.起始・停止
虫様筋は
深指屈筋の腱から起こり、
指の背側にある
伸筋腱膜(extensor expansion)へ移行する。
これにより、
MP関節(中手指節関節)とIP関節(指節間関節)の動きを協調的に制御できる。
橈側へ斜めに走行するため、各指をまっすぐに整列させる機能も持つ。
3.支配神経
- 第1・第2虫様筋:正中神経(C8〜T1)
- 第3・第4虫様筋:尺骨神経深枝(C8〜T1)
虫様筋は、外側2つ(第2・第3指側)は正中神経、
内側2つ(第4・第5指側)は尺骨神経が支配する。
つまり、この筋は両神経の機能をつなぐ重要な存在といえる。
正中神経麻痺や尺骨神経麻痺では、指の伸展・屈曲バランスが崩れ、
「鉤爪手(claw hand)」が生じる。
4.作用
- 第2〜第5指のMP関節の屈曲
- 第2〜第5指のPIP・DIP関節の伸展
- 指の繊細な動作(整列、つまみ動作、筆記動作)の補助
虫様筋の独特な走行により、指の根元(
MP関節)を曲げつつ、
指先(IP関節)を伸ばすという複雑な動作が可能になる。
これは、物をつまむ・ペンを握る・タイピングするなどの
精密動作に欠かせない筋活動である。
5.関連する経穴
虫様筋の支配神経(正中・尺骨神経)は、
手の厥陰心包経・
手の陽明大腸経・
手の太陽小腸経と深い関連を持つ。
掌中央の「労宮」は虫様筋群の活動点と重なり、
指の疲労やしびれに効果的。
「合谷」は指の動き全般の調整に、「後渓」は手背側の神経緊張の緩和に有効である。
6.臨床での関連(症状・特徴)
- 鉤爪手変形(尺骨神経麻痺などによる)
- タイピングや筆記による手掌中央の疲労・こわばり
- 指の屈伸運動の協調性低下
- 手根管症候群での母指球〜第2・3指の違和感
- 指先のしびれやピンチ動作の不安定感
虫様筋は、手の精密な制御を行う中枢的な筋。
長時間のデスクワークやスマートフォン操作により疲労・短縮し、
指の伸展制御が乱れることがある。
また、神経障害(特に正中・尺骨神経)によって萎縮しやすい。
鍼灸では「労宮」「合谷」「後渓」などを組み合わせ、
掌の深層筋群と神経バランスを整える施術が効果的である。
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