1.筋肉の名称(和名・英名・ラテン語)
- 和名:前鋸筋(ぜんきょきん)
- 英名:Serratus anterior
- ラテン語:Musculus serratus anterior
前鋸筋は、胸郭の外側で第1〜第9肋骨から起こり、肩甲骨の内側縁(特に前面)に付着する大型の筋。
肩甲骨を前方に引きつけ、胸郭に固定することで、上肢の挙上や前方運動を安定化させる。
2.起始・停止
筋束は肋骨ごとにノコギリ状に分かれ(serratus=鋸歯状)、胸郭外側を覆うように走行。
上部・中部・下部線維に分かれ、それぞれが肩甲骨の異なる部位に停止する。
3.支配神経
- 長胸神経(long thoracic nerve, C5〜C7)
長胸神経麻痺(C5〜C7障害)により「翼状肩甲(winged scapula)」が出現する。
前鋸筋麻痺の代表的所見で、肩甲骨が後方に浮き上がる。
4.作用
- 肩甲骨を前方に引く(肩甲骨の前方突出:protraction)
- 肩甲骨を胸郭に固定する
- 下部線維:肩甲骨の上方回旋(上肢の挙上に寄与)
- 吸息補助筋として肋骨を挙上(深呼吸時)
僧帽筋上部・下部線維と協働し、上肢挙上の際に肩甲骨を上方回旋させる。
特に90°以上の挙上には前鋸筋の強い働きが必要。
5.関連する経穴
前鋸筋の経絡領域には、足の太陰脾経・手の太陰肺経・足の少陽胆経が走行する。
鍼灸では肩関節の挙上障害、肩甲骨の安定不良、胸脇部痛の治療に応用される。
6.臨床での関連(肩こり・呼吸・姿勢など)
- 肩甲骨の安定性低下(翼状肩甲)
- 肩関節挙上障害(肩甲上腕リズムの乱れ)
- 猫背・巻き肩の一因(前鋸筋過緊張)
- 呼吸浅化・肋間痛(呼吸補助筋として過労)
- 肩甲骨周囲の違和感や「ズレる感覚」
前鋸筋の機能低下は、肩甲骨の安定性を損ない「肩のインピンジメント症候群」や「四十肩」の原因となる。
過緊張では呼吸筋のアンバランスを招き、胸郭運動の制限を引き起こす。
鍼灸では「大包」「淵腋」「中府」などでトリガーを緩め、呼吸と肩運動を改善することが多い。
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