1.名称(和名・英名・ラテン語)
- 和名:肩甲舌骨筋(けんこうぜっこつきん)
- 英名:Omohyoid muscle
- ラテン語:Musculus omohyoideus
「omo-」はギリシャ語で「肩甲(scapula)」を意味し、 肩甲骨から舌骨へと伸びる細長い筋である。 前頸部を斜めに走行し、中央に中間腱を持つのが特徴。 舌骨下筋群の一員として、嚥下後の舌骨・喉頭の下降に関与する。
2.起始・停止
- 起始: 肩甲骨上縁(上肩甲切痕の内側)
- 停止: 舌骨体の下縁
肩甲舌骨筋は二腹性の筋であり、 下腹(inferior belly)と上腹(superior belly)の2つに分かれ、 その間に中間腱(intermediate tendon)を有する。 中間腱は頸部深筋膜に固定され、頸動脈鞘を引き下げる働きもある。
3.支配神経
- 頸ワナ(ansa cervicalis)— 第1~3頸神経(C1–C3)前枝
他の舌骨下筋(胸骨舌骨筋・胸骨甲状筋)と同様に、 頸神経ループ(頸ワナ)により支配される。 舌骨・喉頭の協調的な下降運動を担う。
4.作用
- 舌骨を下方に引く
- 嚥下後、舌骨および喉頭を呼吸位に戻す
- 中間腱により頸部筋膜を引き、頸動脈鞘を張る
舌骨下筋群の一員として嚥下動作の後期に働き、 舌骨や喉頭を下げることで呼吸の再開を助ける。 また、中間腱が深頸筋膜に連結しているため、 頸動脈鞘を引っ張り静脈の血流を補助する作用もある。
5.位置関係・形態
- 下腹は鎖骨上窩の深層、肩甲骨上縁から始まる。
- 上腹は胸鎖乳突筋の下を通り、舌骨下縁に付着。
- 中間腱は胸鎖乳突筋の深層で頸筋膜に固定される。
- 表面からは胸鎖乳突筋によって隠れる。
頸部の斜め走行筋として、他の舌骨下筋(胸骨舌骨筋など)と交差する。 肩甲骨と舌骨を結ぶラインに沿って、頸部の筋区画を「前頸三角」「後頸三角」に分ける目印にもなる。
6.関連する経穴
肩甲舌骨筋は主に胃経・大腸経の経穴と関係が深い。 「気舎(ST11)」や「缺盆(ST12)」などは筋の起始・停止部と一致し、 咳嗽・咽頭痛・喉の詰まり感などの治療点として応用される。
7.臨床での関連(症状・特徴)
- 頸部前面の張り・違和感
- 発声時・嚥下時の不快感
- 胸鎖乳突筋との連動による頸肩部の緊張
- 長時間の姿勢保持による頸部筋膜の拘縮
- 静脈還流障害による顔面の浮腫感
肩甲舌骨筋の過緊張は、前頸部の圧迫感や呼吸の浅さとして感じられることがある。 とくに胸鎖乳突筋との協調不全では、嚥下や発声動作に違和感を生じやすい。 鍼灸・徒手療法では、頸筋膜の緊張緩和とリンパ・静脈の流れ改善を目的に 本筋をアプローチすることが多い。

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